「は? 何か揉めたらすぐに顧問弁護士などに相談するのが危機管理の常識だろ!このど素人が!」という批判が聞こえてきそうだが、もちろん、問題が起きて法律のプロに相談するのは良いことだ。
しかし、トラブルについて弁護士が法的評価、つまり被害者、加害者を決めつけて通達するようなことは、そのトラブルの大きさ、深刻さを見ながらかなり慎重に行う必要がある。
弁護士を入れる基準
危機管理の現場の考え方
一般の方は意外に感じるだろうが、危機管理の現場では「弁護士の介入」によって、せっかくまとまりかけていた話がこじれるということがよくある。
例えば、昔ある企業で、社長から嫌がらせを受けたという社員が会社とトラブルになった。その社員は市民団体を運営する知人らに協力をしてもらって、ネット掲示板などで会社の体質批判や社長の人格攻撃をしていた。
そこで筆者はその社員にヒアリングをして、会社への不満がどこにあるのか、どういう対応ならば納得できるのかをじっくりと聞き出して、互いの論点や妥協点を整理した。それで話し合いがどうにかまとまりそうになったのである。
しかし、ほどなくして交渉は決裂してしまう。顧問弁護士に相談した経営陣が何かとつけて「弁護士の判断では」を繰り返して、社員の行為の法的責任を追及し始めたのだ。
それを受けて社員側も弁護士を立てて徹底抗戦することになり、和解まで長い法廷闘争が続いた。その間にネット上では会社の悪評がどんどん拡散されて社長は辞任、社員も気まずくなって会社を去ることになった。結局、どちらも不幸になって、弁護士が儲けただけで終わったのだ。
皆さんも誰かと軽い揉め事が起きたとき、相手が突然「弁護士に相談する」などと言い出したら恐怖に感じたり、逆にカチンとするだろう。企業危機管理も同じで、弁護士が介入することで、トラブル相手が脅されたように感じたり、逆に闘争心に火をつけたりして、対立が激化してしまうものなのだ。
断っておくが、トラブルに弁護士を介入させるななどと言いたいわけではない。明らかなセクハラや違法行為などは弁護士が介入したほうが解決もスムーズだ。しかし、話し合いで解決できるような余地のあるトラブルの場合、弁護士が介入して、これは違法だなんだとジャッジをすることで、逆に対立が激化して事態を悪化させてしまう、ということを指摘したいのだ。
今回の佐藤さんと橋本さんのトラブルもその典型だ。セクハラや性加害ではないのだから本来、佐藤さんは自分の行き過ぎた言動を真摯に詫びて、身体接触をしなくても俳優はできるという橋本さん側の主張に対しても耳を傾けて、相互理解を深めればいいだけの話である。その橋渡しをするのが、プロデューサーなど製作陣の役割であるはずだ。
しかし、頭ごなしに「ハラスメント」として認定されてしまったので、佐藤さんや所属事務所はこれを徹底抗弁しなくてはいけない。「週刊新潮」の反論インタビューで佐藤さんは、フジ側の弁護士から「佐藤さんのタレント生命にも傷がつきますよ」と言われたことを「脅し」のように聞こえて心底怖くなり、睡眠障害が悪化したという。
「窮鼠猫を噛む」ではないが、権力者に脅迫されて追いつめられた人というのは反撃に出る。弁護士の介入が佐藤さんとフジテレビとの対立を決定的なものにしてしまったのだ。







