そうなれば、社会保障財源への影響が危惧される。これが、最も深刻な問題だ。

 消費税は1989年に3%で導入され、その後、97年に5%、2014年に8%、19年に10%(食料品は8%)へと段階的に引き上げられてきた。現在では、消費税は所得税や法人税と並ぶ、あるいはそれを上回る規模の基幹税となっている。

 消費税率引き上げの大きな理由は、少子高齢化の下で増大する社会保障費を支えることにあった。年金や医療、介護、子育て支援などの費用は、今後も増え続ける。

 高齢者人口が多く、現役世代が減っていく日本では、社会保障制度を維持するための安定財源が不可欠だ。

 つまり、日本がどうしても対処しなければならないのは、消費税の増税であって、減税ではない。そして、このことは、人口構造の変化によって、避けられない課題なのだ。それにもかかわらず消費税を減税するというのは、将来に対する責任を放棄することにほかならない。

財政不信で長期金利は30年ぶりの高水準
日本が抱える問題の本質を覆い隠す危険

 消費税減税は、家計支援策としては分かりやすい。しかし、分かりやすい政策が常に正しい政策であるとは限らない。社会保障費が増大しているなかで安定財源である消費税を減少させることは、将来世代に負担を先送りすることを意味する。

 財源を失えば、社会保障給付を削減するか、国債発行を増やすか、別の税を引き上げるかのいずれかを選ばなければならない。

 特に問題なのは、財政への信認が毀損されることだ。日本はすでに巨額の政府債務を抱えている。ここで恒久財源のない減税を行えば、市場は「日本政府は財政再建よりも目先の人気取りを優先している」と受け止める可能性がある。

 そうなれば、長期金利の上昇や円安を招き、かえって物価高を悪化させる恐れがある。

 実際、このところ新発10年国債利回り(長期金利)は上昇を続けており、7月9日には一時、2.900%と、約30年ぶりの高水準だ。

 今必要なのは、消費税率を一律に下げることではない。物価高で本当に困っている家計を対象に、直接的で迅速な給付を行うことだ。同時に、円安を招いている財政・金融政策への不安を取り除き、社会保障制度を持続可能なものにする必要がある。

 消費税減税は、政治的には訴えやすい。しかし、それは問題の本質を覆い隠す危険がある。日本経済が直面しているのは、一時的な税込み価格の高さではなく、円安、輸入物価高、財政不安、社会保障費の増大という複合的な問題だ。

 この構造に手をつけずに、消費税だけを下げても、問題は解決しない。むしろ、将来の混乱を大きくするだけだ。