「カワイイ」をめぐる対立

 ところが、独自路線を歩むNewJeansに、思いがけないライバルが現れる。それが、同じHYBE傘下から2024年3月にデビューしたILLITだった。

 ILLITは、NewJeansらしさを成立させていた脱力した空気感やナチュラルさ、「カワイイ」を楽しむハイティーンの雰囲気を取り入れていた。これにNewJeansファンは過敏に反応し、ILLITはデビュー前から「NewJeansの亜流」と評されて、バッシングにあい続けた。

 ただ、私にはそれほど似ているとは思えず、コメントの多くも「どこが似ているのかはわからないが、とにかく似ている」といった反応だった。具体的な指摘も「ダンスのこの部分が同じだ」といった「部分」の指摘にとどまっている。

 では、なぜ「似ている」と言われ続けたのか。それは、NewJeansが初めて取り入れた「脱韓国=無国籍化」と「カワイイを自覚的に楽しむ」という二つの作法を、基本的にそのまま踏襲したからだろう。ただし、ILLITはその骨格を受け継ぎながら、NewJeansが女性性を抑えたのに対し、むしろ女性性=「カワイイ」を解放している。

 だからこそ、ファンからすれば「ものまね」であり、ファン以外からすれば「似ていない」という、相反する印象を与える。

 ILLITはバッシングを受けながらも快進撃を続けている。2024年3月のデビュー曲『Magnetic(マグネティック)』は、日本のストリーミングで登場11週目に累積1億回再生を突破し、女性グループ歴代最速記録を打ち立てた。さらに、ビルボードジャパンの年間チャートでも上位に食い込み、TikTokや10代向けのランキングを席巻して、その年の日本レコード大賞新人賞、さらに紅白歌合戦の初出場まで駆け上がった。

 最近、韓国ガールズグループなどのK-POPが停滞期に入っているという説が一部で語られている。ブラックピンクやTWICEの二強時代が長く続き、二組を凌駕するグループがなかなか現れなかったからだ。そこに無国籍の「カワイイ」を取り入れたNewJeansが現れ、停滞を突破する鍵が「脱韓国」と「カワイイ」にあることに、仕掛け人たちは気づいたのである。

 NewJeansのプロデューサーであるミン・ヒジン氏は、自分の会社が属するHYBEが、NewJeansの「新しさ」を成立させていた「骨格」を取り入れたILLITをデビューさせたことに激怒する。ここに、HYBEとミン氏のあいだに埋めがたい確執が生まれた。

 もっとも、HYBE側にも擁護すべき点はある。ILLITには日本人メンバーが2人おり、メンバー構成の点では、NewJeansではなくTWICEの手法を取り入れている。また、NewJeansが女性目線の「カワイイ」の要素が強いのに対し、ILLITはTWICE以来の「カワイイ」寄りである。つまり、ILLITは日本寄りの路線を大衆向けに最適化したグループであり、NewJeansから受け継いだのは発明の骨格の一部に過ぎなかったのである。

 このようなバッシングのされ方は、宇多田ヒカルを模倣したと叩かれた倉木麻衣の事例に似ているかもしれない。二人は発声法が似ていた以外に、宇多田が先行させていた「国際性=脱日本性」「露出の少なさ」「年少アーティスト」といった要素が商業的に利用されたことが、一部のファンには「模倣」に思えたのだろう。