なぜ松田聖子の『青い珊瑚礁』だったのか
2024年6月、東京ドームでのファンミーティングで、人気メンバーのハニが松田聖子の『青い珊瑚礁』を歌った。これは日韓で広く報じられ、原曲のストリーミングは跳ね上がり、日本での話題を一気にさらった。
これは日本の音楽に精通するミン氏ならではの見事な策だった。「松田聖子」を圧倒的なアイコンとするのは、今のアイドル市場を支える中年以上の層である。ベトナム系オーストラリア人であるハニの容貌には、まさにこの層に刺さる要素がある。それまで若い層が中心だったNewJeansのファン層を、大きく広げることに成功したのである。
ただし、この一手は、NewJeansがそれまで貫いてきた無国籍性を、自ら手放す行為でもあった。「青い珊瑚礁」を歌った瞬間、NewJeansは「日本のカワイイ」という具体的な出自を露わにしてしまった。それは日本市場を一気に取りに行くみごとな戦略であると同時に、「焦り」でもあったのではないか。これまで積み上げてきたものをILLITに奪われるという不安が、そこには透けて見える。
一方、ILLITは日本のテレビ番組に出演するたびに、ウォンヒを中心とするメンバーの愛らしさが評判になっていった。それまでのガールズグループの人気者は、輪郭のシャープさや、整った顔立ちやモデル体型などが評価された。だが、ウォンヒは丸みを帯びた輪郭をしており、日本の「カワイイ」をそのまま映したような印象だ。
他方、NewJeansはミン氏とHYBEの対立において、ミン氏の側に立つことになる。とりわけハニは、2024年10月15日、韓国国会・環境労働委員会の国政監査に参考人として出席し、事務所内でのいじめを訴えた。この訴えは、彼女たちが結んでいるのが労働契約ではなくマネジメント契約(専属契約)であることを理由に、同年11月に退けられている。
労働環境の改善を求めて国会で訴える姿は、自立した女性として共感を呼ぶ一方で、アイドルが提供すべき「ファンタジーとしてのカワイイ」を急速に現実に引き戻してしまう。
この一件を機に、NewJeansは従来の枠組みからブランディングを変更せざるを得なくなっている。







