八ヶ岳のプロユーザーが選んだのは、まさかの軽ジムニーだった

F:実際に、そうしたプロのユーザーさんから話を聞く機会はあるのですか?

佐:はい。例えば八ヶ岳の方で山小屋へ荷物を運ぶ仕事にジムニーを使っているユーザーさん。その方は本当にジムニーが大好きで、ご家族で軽のジムニー、シエラ、ノマドとシリーズ全てをお持ちなんです。それぞれ実際に使ってみた上で、仕事で山へ入るなら「やっぱり軽のジムニーが一番良い」と仰っています。理由を聞くと「軽いのが正義だ」と。

 ノマドは人も荷物もたくさん載せられるのでもちろん便利です。でも純粋に山の中へ入っていく走破性で考えると、軽くて小さいジムニーの方が使いやすいと。山小屋へ運ぶ荷物を積める限りパンパンに詰め込んで、それでもトランスファーを“4L”に入れればしっかり登っていく。その方は何台もジムニーを乗り継いでいて、どこが傷みやすいのかも全て分かっている。必要なところはご自分でメンテしながら、“仕事の道具”として使い続けているんです。

F:ノマドの開発責任者が「軽ジムニーが一番」と認めてしまうとは(笑)。

佐:いかんな。今日はノマドの取材、これはちょっと良くないですね(笑)。要は「用途が違う」ということです。たくさん積みたい、人を乗せたい、一般道を余裕を持って走りたいということであればもちろんノマドの方が圧倒的に良い。一方で、狭い山道を仕事で走る方にとっては、軽さが何より大切になる、ということです。

「軽さこそが正義」。排気量が大きい。車体が立派である。装備が充実している。通常のクルマなら、そうした要素が「上級」の証であり、「高性能」を表している。ところが道幅も路面も厳しい山奥へ分け入る世界では、大きさと重さがそのまま弱点になり得るのだ。

 この八ヶ岳のユーザーは休日に林道遊びを楽しむ愛好家ではない。山小屋へ物資を届けるため、荷物を満載して日常的に山へ入って行く正真正銘のプロフェッショナル。その人物が軽、シエラ、ノマドを実際に使い比べ、「これ」と選んだのが、最も小さく、最も軽い軽自動車のジムニーだった。なるほど社内で大きく重くなる5ドアを危惧する声が上がるのも無理はない。

 私が安直に“守旧派”と断じた彼らが守ろうとしたのは、単なる“あるべき論”あるいは“様式論”ではなかったのだ。狭く厳しい道へも平気で難なく分け入ることができる。これこそがジムニーが半世紀にわたり磨き続けてきた、「本質」である。

 ではその本質を極力損なわずに、「人と荷物を載せられる5ドア」をどう成立させるのか。開発陣が最初に突き当たったのは、「車体をどこまで伸ばすか」という、実に単純で、しかし厄介な問題だった。