これからは「制裁しない理由」が問われる

 S.Res.444は、法的拘束力を持たない単純決議であり、それ自体では制裁を発動しない。ただし、拘束力がないからといって重要性が低いわけではない。この決議は、将来の対中本格制裁に向けた政治的な地ならしとして機能する可能性が高い。

 そこには三つの理由がある。

 第一の理由は、対中制裁の大義名分を先に確定できることだ。

 今後、アメリカ政府が中国向け投資を制限し、半導体やAIの輸出規制を強化し、中国共産党幹部の資産を凍結しても、「突然、中国を敵視し始めた」のではなく、「上院がすでに認定した問題に対応した」と説明できる。

 第二の理由は、制裁を実施しない場合に、政権側に説明責任が生じることだ。

 今後の公聴会で政権幹部は、「なぜ中国共産党当局者を制裁しないのか」「なぜ対中投資を認めるのか」と追及されることになる。

 第三の理由は、対中融和のハードルが高くなったことだ。

 アメリカ上院の公式文書が習近平氏を「独裁者」と位置づけ、人道に対する罪を非難した以上、制裁を行う理由ではなく、制裁を見送る理由のほうが議会や世論から問われるようになる。今後、アメリカ政府は「対中関係を良好に保つことが国益だ」とは言いにくくなってしまったのである。

 本決議は、制裁を行う政治的コストを低くし、「制裁しないことの政治的コスト」を大きく引き上げている。

新冷戦の準備は進んでいる

 S.Res.444だけで米中対立の方向性が決まるわけではないが、既存の技術規制、投資規制、人権問題、安全保障問題に同一の政治的枠組みが与えられたことは重要だ。

 アメリカ政府は中国に対して、半導体、量子技術、人工知能といった安全保障上重要な分野への一部投資を禁止・届け出制にする投資規制をすでに施行している。これは輸出にとどまらず、資金、経営ノウハウ、人材ネットワークに至るまで、中国の軍事・監視技術を促進させる可能性があるものすべてを対象にしている。

 S.Res.444の意義は、アメリカがこれまで進めてきた技術規制、投資規制、人権制裁、安全保障政策などを、「習近平による独裁体制の中国」という一つのフックで束ねて統合したことにある。

 現在は、トランプ政権が議会の方針に従って対中制裁にゴーを出せば、新冷戦をいつでもスタートできる状態にある。

 ただし、逆の展開も完全には排除できない。米中の相互依存は依然として深く、アメリカ財界には対中規制の行き過ぎを巻き戻そうとする圧力が残っている。トランプ大統領のディール外交が、当面は宥和方向に長く留まる可能性もある。