「現状維持」を選ぶ日本企業のリスク

 ジェトロの調査では、今後1、2年の中国事業を「拡大する」と答えた日系企業は少数派となり、「現状維持」が多数を占めている。

 だが、現状維持ですら、もはや「高リスクの選択」だと認識すべきである。なぜなら、米中衝突が始まったときに、既存の工場や合弁企業、販売網や情報システム、現地融資などがリスクに晒される可能性が高いからだ。

 アメリカ政府が中国向け投資や技術移転の規制を拡大すれば、アメリカの特許技術、ドル決済システム、アメリカ市場などへのアクセスが難しくなりうる。そうなると、中国事業を守るか米国市場をとるかを半強制的に選択しなければならなくなってしまう。

 もちろん今すぐ中国から全面撤退するなどは現実的ではないだろうが、少なくとも米中対立が激化したときに、中国事業を短期間で分離・縮小・売却できる構造を整えておく必要がある。平たく言えば、将来に向けて中国投資の「損切り」ができるようにしておかねばならないのである。

日本に残された猶予期間は?

 今後のことを考えると、私たちは常に第一次トランプ政権の反転が、蜜月から1年余りで訪れたことを頭に入れておく必要がある。

 もちろん今回も1年後に米中関係が破綻するという予測を立てられるわけではないが、少なくとも11月の米中間選挙が終わった後に何らかの変化が起こることを想定しておくべきだ。外交上の笑顔から対中大規模制裁への移行までには、さほど時間がないと考えたほうがいいだろう。

 現在の米中宥和は対中投資を再拡大する好機ではなく、対中依存を引き下げるための猶予期間と考えるべきだろう。

 たとえば、「中国向け販売事業と、アメリカの特許技術を使った先端事業を分離する」「中国国内のデータや情報システムを、共通システムから切り離す」「重要部品や戦略物資の調達先を複線化する」「台湾有事を想定したストレステストを実施する」などはすぐにでも始めるべきだ。

 中国との取引を直ちにゼロにすることができなくても、「米中のどちらか一方を選べ」と迫られたとき、混乱なく選択できる準備は必要である。

 技術、資本、安全保障の一部では、米中新冷戦はすでに始まっている。まだ始まっていないのは、経済、金融、外交、人的往来までを包括的に分断する全面的な新冷戦である。

 技術、安全保障、投資規制の分野ではすでに分断が始まっており、新冷戦の萌芽が見える。日本企業は現在の米中宥和を恒久的な安定と受け止めるのではなく、重要な経営判断として、中間選挙を一つの目途に有事に備える猶予期間として活用すべきである。

(評論家、翻訳家、千代田区議会議員 白川 司)