“完璧”なマニュアルの死角
「再入館」を許した心理
ご存じのように、イオン側のマニュアルではこのような事態になった際には、客やテナント従業員の安全を最優先に、施設内の安全が確認されるまで「再入館」は禁じられている。吉田昭夫社長は記者会見で、テナントの従業員らに対して、館内に戻っていいとアナウンスしたのかと問われ、「一切ございません。明確に否定しておきます」と強調している。
このイオンモールのマニュアルに、テナントの従業員たちは従うように会社側から指示されている。従業員に売上金を金庫に保管するように指示をしたハビタのように、各社が好き勝手に従業員を動かすと、現場が混乱して二次災害を招くからだ。
そういう意味では、「再入館禁止」というのは安全管理的にも非の打ちどころのない「危機管理ルール」である。
しかし、巨大地震発生時の「人の心」と、それによって引き起こされるトラブルまで想定して、練り上げられたルールだったのかというと、残念ながらそうとは言い難い。
今回、爆発で亡くなった方たち以外にも、複数のテナント関係者が再入館していたことを多くのメディアが報じている。なぜこんなにもたくさんの人が、イオン側が私たちはちゃんとやっていたと胸を張る「危機管理ルール」を破ったのかというと、「そうせざるを得ない個々の事情があった」からだ。
例えば、家族の安否を確認するために自分のスマホが欲しいという人もいただろう。学校や病院など、孤立した家族を迎えにいくために、どうしても自動車のキーが必要だという人もいたかもしれない。自宅に高齢者などがいて心配だからすぐに自宅に戻らないといけないという人もいたはずだ。
イオンモール内の店で働く人たちは、テナント従業員である以前に、誰かの夫であり妻であり、父であり母なので、自らの危険を省みずに守らなくてはいけない人がいる。つまり、「イオンのルールでは再入館ができないので、スマホや車のキーはしばらく我慢してください」という危機管理ルールに「はい、そうですか」と従う人ばかりではないのだ。
それはイオンモール側のスタッフも同じだ。地元紙「熊本日日新聞」によれば、2階フードコート近くで働いていた女性(22)は避難から約45分後、1階北側の「きらきらタワー」近くの出入り口から店舗に戻ったが、それはこんな理由だという。
《誘導していた男性スタッフから「貴重品がないと帰れない従業員は一緒にまとまって取りに行くように」と言われたからだという》(熊本日日新聞 8月4日)
また、避難後に店に置き忘れた車の鍵を取りに戻った1階の店舗で働く女性も興味深いことを言っている。
《施設北西側から入ろうとした際、スタッフらしき人物に「従業員です」と伝え、入館を止められなかったと証言する。館内はガスの臭いがし、数人が残っていたという》(同上)
断っておくが、もしこれらの証言に登場する「スタッフ」が、イオンモール側の人間だったとしてもそれを批判するような意図はない。







