精神論の危機管理では限界
悲劇を防ぐ「提案」
それを理解してもらうため、我々はよくシミュレーショントレーニングを実施する。過去の企業不祥事や組織犯罪を参考にして、架空の事故や事件のシナリオをこちらが作成して、それに基づいた危機管理を、経営陣が管理職に実際にやってもらう。
「社員が不正をするという設定だけど、我が社では規則を徹底させているのであり得ませんよ」などと最初は文句を言う役員や管理職もシミュレーション上で事態が深刻になっていくと、現場にどういう指示を与えるべきか議論が白熱する。最終的にはほとんどの経営陣が「もしこんなことが現実に起きたら今のマニュアルでは対応できない」と真摯に受け止めて、危機管理のルールの見直しなどに役立てていただいている。
では、今回の「イオンモールの悲劇」を受けて、巨大モールの危機管理はどう見直されていくべきか。ひとつは、オンワード樫山が打ち出したように「貴重品はそれぞれが肌身離さず持っていく」ということだが、これは冒頭のような「勤務態度問題」を引き起こすし、テナントによって対応がバラつく恐れがある。
例えば、オンワード樫山の従業員は、地震が起きてスマホや財布を持って避難しても、他の店の従業員は手ぶらで避難して結局、隙をみて貴重品を取りに戻るという事態も予想される。
やはりモール全体での「貴重品対策」が求められる。そこで個人的に思うのは、ホテルの部屋にある貴重品を入れる「セーフティーボックス」ならぬ、「セーフティーハウス」だ。
モールで働く従業員専用入口の前あたりに、従業員らのスマホや貴重品を預けておくだけの堅牢な建物を用意するのだ。
半導体工場などの場合、埃やゴミの侵入や情報漏洩を防ぐためスマホなどの私物は一切持ち込めない。そのため働く人はクリーンルームの前の、更衣室で着替えて、私物を全て預ける。ショッピングモールなのでそこまではやらないが、考え方としては同じだ。
このような施設があれば、客を避難させた後、従業員はここに立ち寄って私物をとって自宅や避難所に向かうだけでいい。半導体工場の労働者と同じく、モール内で仕事をしている間は、私物を施設内に持ち込まないので、再入館をする必要がない。
もちろん、従業員の財産を預かるわけだから、イオンモール側は建物の安全性や警備の人員にかなり投資をしなくてはいけない。しかし、こういうシステムを全国に整備すれば、一度避難した人が再入館して亡くなるという「悲劇」を防ぐことができる。
ルールを絶対に徹底させる。従業員に危機意識を持たせる――。多くの事故や不祥事を見てきた立場から言わせていただくと、危機管理の現場で唱えられることの多い、この手の「軍隊的な精神論」はほとんど効果はない。
本当の危機に直面したとき、人は組織の規則などよりも自分の大事なものを守る行動をとるものだ。まずはこの現実を受け入れたうえで、企業のみなさんは地震対策に取り組んでいただきたい。








