被災者は「危険な場所」に戻る
大震災の衝撃データ
先ほどと同じで、彼らもイオンモールのスタッフである以前に、テナント従業員たちと同じ事情を抱えた被災者だ。「今すぐに家に戻らないといけないんです!車のキーだけ取りに行かせてください!」という必死の訴えを、「いや、マニュアルにあるんで無理ですね」とピシャッと断れる人ばかりではない。再入館せざるを得ない人々の心情に寄り添い、「だったら北側から入ってください」と誘導する人がいてもおかしくはないのではないか。
こういう事態が起きたときに人は何を考え、どう動くのかということを想像したうえで、実行可能なルールをつくるのが危機管理である。つまり、「一度避難した従業員は私物を取りに危険な場所に戻る」という人間心理に基づいた対策を取る必要がある。
「そんなもん結果論だろ」という声が聞こえてきそうだが、巨大地震に直面した人というのは、緊急避難によって自分の安全が確保されてホッとすると次は「大事なもの」を守ろうとして、危険な場所に留まったり、戻ったりすることが調査によって証明されている。
東日本大震災後、ウェザーニュースが東北大学災害制御研究センター長(当時)の今村文彦教授と、京都大学防災研究所の矢守克也教授と共同で行った「東日本大震災 津波調査」でも亡くなった人の60%は、「避難場所から危険な場所に移動した」という。これは第1波の後、自宅が心配になったり、今後の避難生活のために貴重品を取りに戻った際、第2波、第3波に巻き込まれてしまったのである。
これは津波だけではない。10万人以上が亡くなった関東大震災も実は、地震直後にはそれほど多くの人は亡くなっていない。一度は揺れに驚いて避難をしたが、火の手が上がってもこっちまでは来ないだろうとその場所に留まったり、家財道具を取りに戻って大八車に積んだりという人がたくさんいた。
そうこうしているうち、強い風で火があっという間に広がって「火災旋風」が発生して、隅田川沿いなどで多数の人が焼死した。地震発生から4〜5時間のことだ。
このような「過去の教訓」を「未来の対策」に活かすことが、実は危機管理の基本的な考え方である。企業不祥事などはわかりやすいが、不正や隠ぺいなど、組織の腐敗というのは、時代が変わっても繰り返されるものなのだ。裏を返せば、危機管理に優れた組織というのは、過去に自社や他社で起きた問題を「そんな昔の話でしょ」とバカにすることなく、しっかりと教訓にしているのだ。







