2月の社長交代会見でも、近氏はお金や収益、数字への強いこだわりを語り、司会とのやり取りでは「お金が好きなオジサン」という役回りを引き受けている。豊田章男会長も後に、この言い方を近氏に促したのは自分だと明かした。
持ち味を短い言葉で伝える
豊田章男のプロデュース
そこには、数字を単なる帳簿上の結果ではなく、現場の努力が積み重なったものとして見る近氏の持ち味を、短い言葉で伝えようとする意図があった。
豊田会長はラジオ番組でも、仕事の相談を受けたときに自分ができるのは「その人をどうプロモートしてあげるか」だと話している。自身も「モリゾウ」というキャラクターを持ち、「随分と自分の衣装っていうのは気を使ってきました。だから、自分が苦労しながら得たノウハウを今の近社長にいろいろアドバイスしています」と言う。
その経験をもとに、社長就任祝いには仲間と仕立てたスーツと眼鏡を贈ったという。靴やシャツの大切さも説き、髪形については「近君の場合はそれはまだやってない。詳しくは言いません」と笑わせた。
言葉だけでなく装いまで含め、新社長の見え方を一緒につくろうとしているわけだ。
「カネも好きだしキンも好き」
「クロジが好きで黒獅子旗」
そう考えると、今回の応援広告は新社長が親しみやすさを急ごしらえしたものではなく、就任時から続く自己紹介を都市対抗向けに仕立て直したものだと分かる。本人が自然に漏らした一言というより、周囲とのやり取りの中で育ててきたキャラクターである。
その計算が透けて見えても興ざめしないのは、経理出身という事実が土台にあり、実像から離れた愛想の演出にはなっていないからだ。続きはこうだ。
「カネも好きだしキンも好き…ということで、野球部のみんなが金メダルを掛けてもらえるのを楽しみにしています。そして“クロジ”がなにより大事と考えています。野球部が黒獅子旗を持って帰ってくるのも楽しみにしています!」
カネからキン、経理の黒字から都市対抗の優勝旗である黒獅子旗へ。しゃれはかなりベタだが、応援広告ならそのくらいがちょうどいい。読んだ瞬間に意味が伝わり、社長の顔と名前を覚えさせ、最後は野球部への期待に戻る。難しい機知を競う場ではなく、社員やファンと一緒に応援の輪に入るための文章だからである。







