若者の心をつかんだ「県民所得倍増」

 今回の選挙では、古謝氏の「十年で県民所得倍増」という訴えが若者を含む経済重視の有権者に響いた可能性がある。

 古謝氏は選挙討論会のあとで「(沖縄の)課題が解決しないことに対して、国がちゃんと向き合ってくれないんだとか、あるいは大企業が搾取しているんだみたいな形の話がよく出てきまして、ここが自分の主張と違うところなんだなと思って」と述べている。

 つまり、貧困問題を県政が取り組むべき課題として、自分たちに解決できる問題だと語った。

 さらには、保育料や教育費の負担軽減、英語学習の充実といった子育て・人材育成の施策を掲げ、基地問題を争点の中心から外して、沖縄における生活を中心に据えたのである。また、辺野古移設については容認の立場をとり、国との関係を再構築して経済振興に取り組むと訴えている。

 これまで「反基地」を当たり前に訴えてきた候補者が多かった中で、移設容認というリスクを冒して責任を引き受ける態度を見せた。古謝氏のこの態度は若者にとってかなり新鮮に映ったと考えられる。

 もちろん、争点が基地から経済へと移ったのは、辺野古の埋め立て工事が着々と進み、県と国との法廷闘争でも県側に厳しい判断が続いて、争点としての先鋭性が薄れていたという事情も大きい。古謝氏はその機会を逃さず、経済を選挙の争点の柱にした。

 これが可能だったのは、自民党をはじめ6党から推薦を受けていたことも大きかっただろうが、それ以上に42歳という若さがもたらす「時代の変革」のイメージも大きかったと考えられる。

SNSが変えた「沖縄の常識」

 古謝氏の勝利については情報環境が変化したことも大きかった。古謝陣営はSNSを積極的に活用し、当初の課題だった知名度不足を補って、支持を広げた。

 ただし、SNSは単なる宣伝手段にとどまらなかった。

 これまで革新派が選挙を有利に展開できた背景には、圧倒的な動員力の強さがあった。人が集められると、争点を設定して、その主張の正しさを演出するのにかなり有利になる。労組、地縁、地元メディアという回路が機能していたあいだは、反基地は沖縄政治における大きな争点であり続けた。

 だが、SNSがその前提を崩した。若者は組織を経ず、地元紙を経ず、直接SNSで情報に触れる。そこでは「外から見た沖縄」や「外から見た玉城デニー知事」が語られていた。

 その旧来システムの機能不全を象徴したのが、辺野古でのボート転覆事故をめぐる対応だろう。亡くなった高校生の遺族が、ヘリ基地反対協議会(反対協)の事故後の対応に強い不信感を表明したことから、SNS上では反対協とつながりがあるとされる玉城知事やオール沖縄への批判が激しさを増した。