辞任を表明する林欣吾社長(右)と勝野哲会長 Photo by Fumiya Suzuki
中部電力が公表した浜岡原子力発電所3、4号機の基準地震動データ不正問題は、林欣吾社長と勝野哲会長、水野明久相談役という直近の社長経験者3人の辞任によって一つの区切りを迎えた。長期連載『エネルギー動乱』の本稿では、過去の不祥事の連鎖が遠因となった総退陣劇の真相と、瓦解しつつある中部電の将来戦略を明らかにする。(ダイヤモンド編集部 鈴木文也)
内部通報の放置と経営陣の叱責が浮き彫り
浜岡原発の安全審査偽装で首脳陣が総退陣
「経営トップとしてガバナンスやコンプライアンス、安全性を最優先とする組織風土をつくり上げることができなかったのはじくじたる思い。経営責任を明らかにするため今月末をもって辞任する」
9月14日、名古屋市内で行われた中部電力の記者会見で林欣吾社長と勝野哲会長は張り詰めた空気の中、そろって頭を下げ、引責辞任を発表した。
そもそも今回のデータ不正とはどういったものだったのかを簡単に振り返ろう。審査では原発の安全性確認のため、想定される揺れの大きさを指す「基準地震動」とそれを引き起こす「代表波」を選定する必要がある。中部電では通常、20組の波を選出しその平均に最も近い波を代表波とすることとなっている。しかし、あらかじめ代表波を恣意的に選定したうえで整合性が取れるように残りの19の波を選ぶなどの方法が用いられている疑惑が浮上したのが今回の不正発覚の発端だ。
2026年1月に浜岡原子力発電所3、4号機の基準地震動データ不正が公表されてから、外部の弁護士らで構成する特別調査委員会が報告書を開示するまでに約8カ月をかけて結論付けた評価と原因の骨子は以下の通りである。
調査委は、浜岡原発の基準地震動策定に用いられた225の代表波のうち、少なくとも208波が不適切であったと評価した。さらに、18年に審査業務に直接携わらない社内専門家である「ライン外専門家」から疑義を指摘されていたほか、19年と21年にも内部通報が寄せられていたにもかかわらず、組織として実効性のある調査や是正を行っていなかった。
一連の不正を招いた根因は何だったのか。
調査報告書によると、聞き取り調査では「どの地震動計算結果も数学的には正解であることから、技術的には誤りではないと認識していた」「原子力規制委員会(NRA)の審査官は専門家ほど地震動に精通していない」などの供述が確認された。部門内には重要プロジェクトへの異論を排除する「独自の正当化理論」が存在し、業務の専門性が高まる中で組織がブラックボックス化し、監視機能が完全にまひしていた実態が浮き彫りとなった。
そして見過ごせないもう一つの要因が、審査の遅延が電力会社単独では制御し切れない性質を持つことへの理解を欠いた、経営層による厳しい叱責である。報告書には、審査の遅れに対する経営幹部のいら立ちが生々しく記録されている。
18年11月、当時社長だった勝野会長は「審査スケジュールが尺取り虫のように遅れる」と発言。林社長も22年3月に「前回あれだけ議論をして、ロードマップを作ってやっていくという話をしたが、その後何をやってきたのか」と現場を問い詰めていた。従業員への聞き取り調査では、勝野会長を含めた幹部3人について「特に厳しい反応が多かった」と証言されており、調査委はこれらの叱責が現場に対して重大な心理的圧力として作用したと認定した。
中部電は調査委の報告を受け、浜岡原発3、4号機の審査をいったん取り下げるとした。その上で、原子力部門にガバナンス機能を果たす独立部署を設置し、監査等委員会直属の通報窓口を設けるなどの再発防止策を表明。組織を抜本的に再編し、社会的な信頼を回復させた後に再申請する方針を示している。
年明けに公表された前代未聞の不正は、林社長と勝野会長に加え、不正の端緒期に社長を務めていた水野明久相談役という直近3代の社長経験者が辞任することで一区切りを迎えた。
だが、この異例の「トリプル辞任」は単なるデータ偽装の引責にとどまらない。その背景には、勝野氏と林氏の社内対立、過去に端を発した二つのカルテル問題による「外堀の崩壊」、さらには東京電力ホールディングスをのみ込むはずだった将来構想の瓦解という、名門電力がひた隠しにしてきた構造的危機が横たわっていた。次ページでは、ドミノ倒しの退陣劇の真相と、中部電を待ち受ける前途多難な難題を明らかにする。








