企業が「貯蓄超過」になると、デフレが起きる仕組みとは?
まず、企業貯蓄と消費者物価の関係性について確認しておきましょう。
【図-2】を見ればわかるように、企業貯蓄率がマイナスで「投資超過」のときには、消費者物価が上昇するインフレ状態になり、企業貯蓄率がプラスで「貯蓄超過(投資不足)」のときには、消費者物価が下降するデフレ状態になっています。
これは当然のことです。まず、企業部門が「投資超過」(企業貯蓄率がマイナス)になると、インフレが起きるメカニズムについて考えてみましょう。
「誰かの支出は誰かの所得」だから、企業部門の投資(支出)が増えると、家計部門の所得が増えます(詳しくは「『財政赤字=悪』と決めつける議論がいかがわしい“明確な理由”とは?」参照)。そして、所得の増えた家計が積極的に消費をすることで企業の売上が増え、企業の利益が増えると、それが従業員の給料や個人株主への配当として分配されます。こうしてさらに所得の増えた家計は、消費量をより一層膨らませます。
このように家計の消費が増えていくと、企業は将来の収益拡大に期待して、さらに積極的な投資に乗り出します。こうした好循環が繰り返されることで、経済全体が成長軌道に乗っていく……。このように企業が「投資超過」になることで、経済の好循環が始まります。そして、その好循環がグルグルと勢いよく回っているときには、「需要」が「供給力」を上回ることによって、物価は自然と上がっていくことになります。
つまり、企業が積極的に投資をすることによって、経済の好循環が回り始めると、社会全体の需要が大きく膨らむため、自然とインフレが起きるということです(なお、企業が積極的な設備投資を続けると供給が増えるから、インフレを抑制する力も働くので、無制限にインフレが亢進するわけではありません)。
「投資超過」になるとインフレが起き、インフレが起きると「投資」が増える
ただ、「企業が投資超過になると、インフレが起きる」というだけではありません。その逆の因果関係もあります。つまり、「インフレになると、企業の投資が増える」という、さっきとは逆方向の因果関係も存在するのです。
どういうことか、ご説明しましょう。
インフレ(物価上昇)が起きているということは、たとえば、いま1万円で買えるものが、1年後には1万2000円出さないと買えなくなるということです。つまり、お金をずっと持っていると、そのお金の価値は下がってしまうということ。このように、インフレとは、お金の価値が下がるということにほかなりません。
だとすると、経営者としては、投資をするならば、なるべく早く投資をした方がいいと考えるはずです。いまなら1億円で工場を建てられるけれど、1年後には、1億2000万円かかるかもしれない。だったら、少しでも早く投資を決断した方がいいと、誰だって考えるはずです。そのため、「インフレになると、企業の投資が増える」という因果関係も存在するというわけです。
つまり、「企業が投資超過になるとインフレが起き、そのインフレの影響でさらに企業投資が増える。そして企業投資が増えるとインフレがさらに進む……」というスパイラルが生まれるのです。
そして、これこそが、経済が成長していくときの「正のスパイラル」なのです。もちろん、物価が高くなりすぎると、必要なモノやサービスを買えなくなる人が増えるといった問題が生じるから、過度のインフレは避ける必要があります。だけど、緩やかなインフレが起きているのは、経済にとっては望ましいことなのです。
「デマンドプル型のインフレ」と「コストプッシュ型のインフレ」
ただし、インフレには二種類あることに注意が必要です。
第一のインフレは、これまで説明してきたように、「需要(デマンド)」が「供給」を上回ることで起きるインフレです。デマンド(Demand、需要)が物価をプル(Pull、引っ張り上げる)するから、これを「デマンドプル型のインフレ」といいます。このインフレは景気拡大を伴うので、一般的に「よいインフレ」と考えられています。
第二のインフレは、原材料費などのコストが上昇することによって起きるインフレです。コストの上昇が物価をプッシュ(Push、押し上げる)するから、これを「コストプッシュ型のインフレ」といいます。このインフレは、景気を押し下げるものであり、一般的に「悪いインフレ」と言われています。
たとえば、ホルムズ海峡の封鎖による原油価格の高騰が、コストプッシュ型のインフレの典型です。アメリカとイランが交戦状態に入ったことで、原油が物理的に日本に届かなくなった結果、ガソリン代はもちろん、電気代から食料品まであらゆるモノが一斉に値上がりしました。
このとき、日本国民の所得の増加(=需要増)は起きておらず、ただ外的要因によって物価だけが上がっただけです。そのため、コストプッシュ型のインフレが起きると、多くの国民の生活は苦しくなり、景気を押し下げることになるのです。
このように、同じインフレでも、この二つは正反対の性格をもちます。
そして、さきほど説明した「投資超過によってインフレが起きる」というのは、デマンドプル型のインフレのことを指していることにご注意ください。
「企業の貯蓄超過」と「デフレ」の危険な関係
話を戻しましょう。
1990年代初頭のバブル崩壊までの日本は、「投資超過によってインフレが起きる」という因果関係が回り続けることによって、経済成長を続けてきました。
ところが、すでに見たように、バブル崩壊をきっかけに、日本企業は「投資超過」から「貯蓄超過(投資不足)」へと変貌してしまいました。すると、これまでとは正反対のスパイラルが働き始めました。
「貯蓄主体」になった企業部門は、モノやサービスを販売することで家計からかき集めた資金(利益)を、せっせと貯め込むようになってしまったわけですから、家計のお金は減っていくことになります。ということは、当然、「お金を使ってモノやサービスを買う力」=「需要」は萎んでいくことになります。
こうして企業が「貯蓄超過(投資不足)」になると、社会全体の「需要」が萎み、モノやサービスが売れなくなります。そして、「需要」が「供給力」を下回るようになると、企業は値下げするほかなくなり、「物価下落=デフレ」が始まるのです。
しかも、値下げをしても利益を出すためには、企業は人件費や仕入れコストをカットするほかありません。こうして、企業はますます「貯蓄超過(投資不足)」へと突き進み、さらに需要が萎んでしまうという悪循環に陥ってしまいます。このように、「企業が貯蓄超過になると、デフレ(物価下落)が起きる」という因果関係が存在するのです。
デフレによって「国力」が低下する
恐ろしいのはここからです。



