若手と組織との関係づくりに
ゴールラインを引く
「3年後に辞める」ことを前提として、若手と話をしよう。
3年後があなたの会社にとって過激だと思うのであれば、5年後にしても10年後にしても良い。3年でも気が長すぎると思うのであれば1年でも2年でも良い。あなたの会社の状況を勘案して、若手と組織との関係づくりにゴールラインを引くのだ。
そう考えた場合に、若手への問いかけはこう変わる。
「3年後に辞めるとして、この会社でどんな仕事ができるようになりたいか」
「3年後に辞めるとして、誰と働きたいか」
「3年後に辞めるとして、この会社の人事制度でいま使えるものはないか、使ってみたいものはないか」
「3年後に辞めるとして、その間にこの会社でこれだけは頑張ってみたい、ということはあるか」
正規社員として就職した25~29歳の若手社会人の47%は1回以上転職を経験している。20代後半の段階ですでに半数が、会社を辞めた経験があるのだ。この事実を忘れてはならない。「いつまでもこの若手が組織にいる」を前提にした話からでは決して生まれない、本音に根差した豊かな若手と組織の関係性をつくっていくのだ。
いまこの会社で何を得て
次へとつなげていくか
辞めることを前提にして仕事やキャリアの話をすることで、若手は「この会社から自分は何が得たいのか」と向き合わざるを得なくなる。自分がどのようなスキルを身につけたいのか、どんな経験を得たいのか、はたまた報酬をどんな形で得たいのか、より明確に言語化せざるを得なくなる。そうせねば、損、だからだ。
「将来辞めるかもしれない」と思っているからこそ、いまこの会社で何を得て次へとつなげていくか、という視点で日々の業務を捉えることができる。これは、組織と個人双方にとって大きな利点となる。
例えば、「3年後に辞めても、これだけの経験やスキル、人間関係を得られた」と思えるような環境や機会を会社が提供できれば、その3年間は非常に密度の濃いものとなるだろう。
『あの若手はどうして辞めないのか』(古屋星斗、朝日新聞出版)
また、会社側も「いつか辞めるかもしれないが、その間にどのような価値をお互いに提供し合えるか」という発想に立つことで、若手にとって魅力的なプロジェクトや成長の機会を積極的に設計するようになる。もし本当に辞めても「良い会社だった」という気持ちでの退職――ポジティブ退職――につながるだろう。そして辞めなかった場合には、この濃厚な3年間はもちろん重要な意味を持つことになる。
「3年後に辞める前提」でキャリアや仕事について対話を重ねることにより、若手の現実的な希望が引き出されやすくなる。単なる建前や形式的なコミュニケーションから脱却できる。こうした積み重ねこそが、まさに「辞めない理由」の蓄積なのだ。
もはや終身雇用や年功序列といった前提に依存したコミュニケーションは通用しない。むしろ、「辞めること」を前提にしながら、いまこの瞬間をいかに積み上げ、有意義にするかをともに考えるのだ。
今後の日本に、もし「終身雇用的な関係性」が残るとすれば、それは「辞めなかった3年間」の積み重ねによるものだ。それが、静かな退職の減少や定着率の向上、そして中核人材の輩出へとつながる新たな道だ。







