馬渕名誉教授の専門は人工関節である。昔、関節の滑りの仕組みについての説明文を書いている際、「関節の滑りがバナナの皮を踏んだ時の滑りのよさを連想させる」と表現したことがあった。
というのも関節は、クッションの役割を果たす軟骨に覆われており、この軟骨の摩擦が小さいから私たちの体は流動的に動くことができる。硬い骨同士が直接ぶつかり合っていたら大変だ。
人工関節の研究者が
バナナの皮に注目したワケ
馬渕名誉教授はバナナの例えを使ってからずっと、本当にバナナの皮の滑りのよさを調べた人がいるのか気になっていた。文献を読み漁っても実際に測った研究は見当たらなかった。そこで2010年頃に思い切って、自分でバナナの皮の研究を始めたとのことだ。
バナナの皮の研究では、普段から使っている関節摩擦の研究ノウハウが役に立ったそう。摩擦の強さを計測する機器を使って、普通に床を歩く時の床と靴の摩擦、そしてバナナの皮を靴で踏んだ時の、床とバナナの皮の摩擦を繰り返し計測した。
データを取ることには慣れていたものの、「ただ摩擦を測るのではなく、踏んで滑って、大きな力をかけたその瞬間だけを測るため、技術的には難しかった」とのこと。
こうして摩擦係数を算出したところ、靴と床の摩擦係数が0.412だったのに対して、バナナの場合は0.066と、約6分の1の値だった。つまり、普通に靴で床を歩く時よりも、バナナの皮を踏んだ時は5~6倍滑りやすくなるということだ。
ただ、バナナが滑りやすくなるのは踏んづけた時だけ。例えば、アクリル版にバナナの皮を載せて傾けてもスルスル滑ることはない。
理由を探るべく顕微鏡で観察したところ、バナナの皮の内側に粘液が詰まった数ミクロメートル大の粒々がたくさん見つかった。この粒々が踏まれることによって弾け、中から粘液が飛び出しヌルヌルすることで滑りやすくなることを突き止めた。
仮にバナナの皮が乾いてしまうと、粒々の中の粘液がなくなり、踏んでも滑らなくなる。そうかと言って、ただ水分があればいいというわけでもない。水分豊富なリンゴやミカンの皮で試してみても摩擦係数が0.1を超えていたことから、粒々と中に含まれる粘液がポイントなのだと分かった。また、この粘液は、人間の関節液の成分とよく似ていることも分かった。







