心理学では、モチベーションを大きく二つに分けて考えます。

 一つは内発的動機付けです。達成感や興味など、自分の内側から湧き出てくるものに動かされている状態を指します。

 もう一つは外発的動機付けで、報酬や他者からの評価、称賛といった、自分の外側にあるものに動かされている状態です。

 一般には、内側から湧き出る動機のほうが望ましく、外からの動機、ましてや誰かへの対抗心や復讐心などは好ましくないと考えられがちです。果たして、本当にそうでしょうか。

“黒い炎”は使い方次第で
強力なエンジンになる

 まず理解しておくべきは、人を動かす燃料と、そのエネルギーをどこへ向けるかは別の問題だということです。誰かを見返したいという感情を抱くことと、誰かを攻撃することを混同してはなりません。

 外発的動機付けと聞くと、多くの人は、あの人に認められたいから頑張るといった前向きな例を思い浮かべるでしょう。

 しかし、承認欲求だろうが復讐心だろうが、動機の源が自分の外側にあるという点ではまったく同じ構造です。

 相手に向ける感情がプラスかマイナスかの違いだけで、心理学ではどちらも外発的動機付けにあたります。
 
 内発的動機付けは効果が長続きしやすい半面、火がつくまでに時間がかかります。それに対して外発的動機付けには、短期間で行動をがらりと変える瞬発力があります。昨日言われたあの一言が悔しすぎて、翌朝から5時に起きて勉強を始めた、といった話を聞いたことがある人もいるでしょう。

 これは外発的動機付けの瞬発力が最大限に発揮された状態で、スタートダッシュの燃料としては非常に強力なのです。

 しかし、一般に、外から与えられる報酬は内発的動機付けを損なうと言われています。楽しんで取り組んでいたことでも、報酬のためにやっていると感じるようになると、もともとの意欲が弱まることがあります。アンダーマイニング効果と呼ばれる現象です。

 ただし、外からの働きかけが、必ずしも意欲を損なうとは限りません。また、最初の動機が、そのまま続くとも限りません。

 ライバルを意識して努力し、真面目に仕事に取り組み続けているうちに、思いがけず上司に評価されたり、他部署から助かったと感謝されたりしたとします。

 すると、外にあったはずの動機が、だんだん「この仕事はやり始めてみると実は面白いな」「もっと高度な業務をこなせるようになりたい」と、自分の内側からの欲求に変わることがあります。

 心理学ではこれを動機の内在化※と呼びます。誰かに勝つための手段でしかなかったはずの仕事が、いつの間にか自分がやりたいからやる仕事、つまり目的に置き換わっていくのです。

 しかも、復讐心に突き動かされて、普通なら尻込みするような難しい仕事にも「じゃあ、やってやるよ」と自ら手を挙げる人もいます。

 そのようなちょっと背伸びするような挑戦が、リーダーシップ研究でも体系化されている一皮むける経験につながり、人を急成長させるきっかけになるのです。

 仕事で復讐心や嫌悪感を原動力にしていいのかと問われれば、私の答えは、「バンバン使っていい」です。

 キャリア面談でもそう伝えています。最初の動機としては何の問題もないどころか、エンジンの燃料としてむしろ秀逸だと思います。結果さえ出せば、動機の純粋さは問われません。     

「スター・ウォーズ」で言えば、ジェダイでもシスでもいいのです。正義感から生まれた力でも、憎しみから生まれた力でも、力の源泉を問う必要はない。大事なのは、そのエネルギーの使い方だけです。