アクティビストの実像#7Photo:John Keeble,NurPhoto/gettyimages

アクティビストによる取締役選解任提案が急増し、企業防衛のアドバイザリー需要が高まっている。かつて防衛市場を1強独占したアイ・アール ジャパンが不祥事で失速し、人材が大量流出。その受け皿となって急成長しているのが、デロイトやEYなど大手総合コンサルティングファームだ。連載『アクティビストの実像』内の特集『コンサル×アクティビスト 資本市場を塗り替える“知の総力戦”』の上編で、巨額ディールを得意とする投資銀行や「票読み」に一日の長がある信託銀行などとの違いを「4象限マップ」で比較し、上場企業の“用心棒”としての各陣営の実力を独自検証。資本市場を塗り替える「知の総力戦」の最前線に迫る。(ダイヤモンド編集部副編集長 重石岳史)

トップ解任提案が急増する新局面
IRジャパン失速で大手コンサル台頭

「アクティビスト対応は、結局のところ株価を上げなければ終わらない。上場を維持したまま株価を引き上げることこそが最大の防衛策。これまでの防衛実務は、M&Aや非公開化といったディールを前提にした『切った貼った』の世界に偏り過ぎていた」

 2024年4月に設立されたデロイト トーマツ エクイティアドバイザリー(DTEA)の代表執行役社長、古田温子氏はそう語る。

 1990年に野村證券へ入社し、IBコンサルティング部(当時)で数々の敵対的M&Aに対する防衛コンサルを手掛けた。2014年にアイ・アール ジャパン(IRジャパン)に移籍し、同社幹部としてアクティビスト対応や委任状争奪戦を指揮。日本の企業防衛と資本市場の表裏を30年以上にわたり見つめ続けてきた古田氏の言葉の裏には、資本市場の過酷な現実がにじむ。

 実際、26年の株主総会では、KADOKAWAや京セラ、ワコムなどで、アクティビストによる経営トップの解任提案が相次いだ。経営陣自身の資質と経営責任が直接問われ、首にやいばが突き付けられる局面が急増している。

 こうした外圧をはね返すべく、上場企業の経営陣が指南を求める先が、いわゆる防衛アドバイザーだ。野村證券のような大手証券やメガバンクグループの投資銀行部門、議決権行使のシミュレーションを行う「票読み」の実務に長けた信託銀行だけでなく、防衛市場で圧倒的な地位を築いたのが独立系のIRジャパンだった。

 だが、そのIRジャパンも22年、ダイヤモンド・オンラインの報道で東京機械製作所の買収防衛案件を巡る不適切行為が発覚(『【スクープ】IRジャパン衝撃の「買収提案書」入手、東京機械の買収防衛でマッチポンプ疑惑』参照)。元役員のインサイダー取引事件などもあり、ガバナンス不全が明らかになった。

 この事件を機に、IRジャパンの経験豊富な人材が流出。その主な受け皿となったのがデロイト トーマツ グループやEYストラテジー・アンド・コンサルティングといった大手コンサルである。

 EYは22年、IRジャパン出身の笹岡武史氏(現EYストラテジー・アンド・コンサルティング ディレクター)と中村拓海氏(同)を共同チームリーダーに招聘し「戦略的株主エンゲージメント支援チーム」を発足。現在は約30人体制へと組織を拡大し、さらなる人員増を見据える。

 古田氏を迎え入れたデロイトは24年にDTEAを設立。設立当初わずか3人だった体制から、2年半で22人体制へと拡充した。社内公募や中途採用だけでなく、来年には4人を新卒採用し、若手の育成基盤を急速に固めている。

 彼らコンサルが、なぜ防衛アドバイザリーに注力するのか。その理由の一つは、顧客獲得の新たなゲートウェイとなり得るからだ。一歩間違えれば経営権が揺らぐ有事において、防衛助言を起点に経営中枢に食い込み、株価向上に向けた本業改革支援や中期経営計画刷新などコンサル部隊を投入してのビジネスに広げられる。

 そしてもう一つの理由が、株式非公開化など一過性のディールに持ち込んで手数料を稼ぐのではなく、上場を維持したまま本業改革によって企業価値を引き上げるという、従来のディール偏重のアドバイザーに対する強烈なアンチテーゼだ。「アクティビスト対応は、結局のところ株価を上げなければ終わらない」という古田氏の冒頭の言葉は、まさにその核心を突く。

 では、ディールによる一時しのぎではなく「本業改革による株価向上」を掲げるコンサルの参入は防衛市場のパワーバランスをどう変え、なぜ今そのアプローチが不可欠となっているのか。

 次ページでは、市場平均以上の高還元企業であっても本業の不全を突かれて退陣を迫られる過酷な新現実をデータで検証するとともに、防衛アドバイザー各陣営の本当の実力を「4象限マップ」で解剖する。

 投資銀行が窮地の経営陣をMBO(経営陣による買収)へと誘導する「構造的なカラクリ」、そして疑念を抱いた企業から総合コンサルへのセカンドオピニオン依頼が急増する背景とは――。資本市場を塗り替える“知の総力戦”の深層に迫る。