BCG泥沼訴訟 丸投げリストラの全内幕Photo by Yoshihisa Wada

TSIホールディングス(HD)がボストン・コンサルティング・グループ(BCG)への「丸投げリストラ」を巡り提訴された訴訟で、TSI HDは「PBR(株価純資産倍率)1倍割れの下での人員対策は合理的だ」と主張する。だが、株価低迷を理由にリストラに踏み切るのは本末転倒だと指摘するのが、上場会社にアクティビスト対策や買収防衛策を助言するIBコンサルティングの鈴木賢一郎社長だ。長期連載『コンサル大解剖』内の特集『BCG泥沼訴訟 丸投げリストラの全内幕』第9回の本稿では、アクティビストを過度に恐れる経営とコンサル依存が、長期的な競争力を損なう“負の連鎖”につながる理由について聞いた。(聞き手/ダイヤモンド編集部 永吉泰貴)

「PBR1倍」に縛られる経営の落とし穴
株価対策リストラが逆効果になる理由

――TSIホールディングス(HD)の元法務課長がTSI HDとボストン・コンサルティング・グループ(BCG)を提訴したリストラ訴訟において、TSI HDは「PBR(株価純資産倍率)1倍割れの状況を踏まえ、コスト構造の課題への対応として人員対策を実施することが合理的であることは言うまでもない」と主張しています。PBR改善を目的としたリストラに合理性はあるのでしょうか。

 PBR1倍割れへの対応としてリストラを行うという説明には、強い違和感があります。PBR1倍割れや株価低迷の責任を、従業員に転嫁しているからです。

 そもそもPBRが1倍を割り込んでいる上場企業は珍しくありません。「資本コストを意識した経営」といった高尚な議論以前に、営業利益率が低く、事業として十分にもうかっていない企業が多く存在するのが実情です。

 かつてニデックの永守重信氏は、PBR1倍割れについて「買収して会社の数を減らし無駄な過当競争をなくさないと改善するのは無理だ」と指摘し、敵対的買収を実施しました。

 永守氏の強引な手法やニデックのガバナンスには問題があるものの、この指摘については私もその通りだと思います。企業間競争が過剰であるが故に収益性が上がらず、PBRも全体的に低迷しているのです。

 とりわけアパレル業界では、ブランドの流行という固有の事業リスクが常に付きまといます。投資家から倒産リスクを意識されやすい業界でもあるため、現預金や不動産など財務の健全性を厚めに保ちたいという経営判断には合理性がありますし、魅力あるブランドや商品を生み出し続けるには、一定規模の人材を抱え続ける必要もあります。

 TSI HDのPBRが低い背景には、過当競争の問題に加え、こうした業界特有の事情があるはずです。

 東京証券取引所によるPBR1倍要請が話題になりましたが、東証自身もPBR1倍を金科玉条としているわけではありません。絶対的な基準というより、あくまで一つの目安にすぎないと思います。

 上場企業である以上、収益性の改善が求められるのは当然です。ただし、一過性の改善では意味がないというのが東証の立場でもあります。持続的な改善が求められる中で、その手段として本当にリストラが適切なのかどうかは慎重に検討すべきです。

――それでも、経営にとってリストラが避けられない局面はあるのではないですか。

 もちろんです。沈みかけている船、つまり会社全体を救うために一部の従業員には別の船に移ってもらわなければならない場面もあるでしょう。

 とはいえ、リストラを「PBR改善のため」と説明すれば、従業員の士気はほぼ確実に下がるのではないでしょうか。

 結果的に一過性のPBR対策はできたとしても、東証のいう持続的な改善にはつながりません。長期的な競争力をかえって損なう可能性が高く、本末転倒です。

――PBR1倍割れ対策のリストラをすると、なぜ長期的な競争力低下につながるのでしょうか。

次ページでは、PBR1倍割れ対策のリストラをコンサル依存で進めると、なぜ競争力の低下につながるのかを聞いた。さらに鈴木社長は「TSI HDのアクティビスト対応は過剰で、方向性もずれている」と指摘。その根拠と、上場企業の経営者が備えるべきアクティビスト対応の基本姿勢を解説する。