「おまえ自体が邪魔なんだ!会社が右と言ったら右なんだ。自分の正しさを振りかざす営業マンなど組織にはいらん。高田川が詰め腹切らされたんだから、おまえも反省を態度で示せ!」

 そう言って机を叩いた。それ以上、会話にはならなかった。

 山之下支店長にとって私は反抗的な部下だったし、私からすると、支店長は数字のためなら顧客との関係性まで犠牲にする人物だった。価値観が根本的に違っていた。

 このやりとりがあった週末、私は床屋へ行き、丸坊主にした。支店長への無言の抗議だった。言葉が通じないから、態度で反省を示したのだ。

 月曜日の朝、山之下支店長は私を見るなり怒鳴った。

「金融機関の社員が丸坊主とは何事だ!常識で考えろ!」

 私は黙って頭を下げた。しかし、内心では「常識を壊しているのはどちらなのか」と思っていた。

東京・蒲田から大阪・堺へ
飛ばされて与えられた仕事は…

 堺支店は、周辺に銀行、保険会社、百貨店、市役所などが集まる泉州地域の拠点エリアに位置する。地元で何代も続く製造業の経営者や地主、医師、古くからの資産家たちがメインの顧客だ。新しい支店、新しい上司、新しい顧客。今度こそ心機一転、業務に励もうと私は意気込んでいた。

 ところが、その意気込みは配属初日から揺らぐことになる。上司となった辺見課長は、私を見るなり分厚い顧客リストを机の上に置いた。

「引き継ぎなんて時間の無駄だ。同行訪問もやる必要はない。このリストの客を回れ。キミは私の指示どおりに動けばいい」

 辺見課長の言葉に温かみはなかった。歓迎されているとも思えない。それでも私は黙ってうなずいた。ここで反発しても何も始まらない。まずは結果を出すことだ。そう自分に言い聞かせながら、私は黙ってリストに目を通した。

 すると、ある口座が目に留まった。

 口座は「小倉勝」名義で、住所は介護施設になっている。どうやら夫婦で施設に入居しているらしい。違和感を覚えたのは取引履歴だ。保有している投資信託をいったん売却し、その資金で別の投資信託を買い直す「乗り換え」が、3カ月ごとに繰り返されている。半年ごとに管理職(課長)面談、1年ごとに支店長面談も行なわれているが、まるで定期点検のように機械的に商品が入れ替えられている。違和感を抱いた私は辺見課長に尋ねた。