インフレによる税収増はそのまま減税に使えない
時間差で人件費などの歳出も増加

 この問題については、開会中の臨時国会でも議論が行われた。

 昨年11月11日の衆議院予算委員会で、緒方林太郎議員(無所属)は高市首相に対し、インフレによって税収が増えても、それを自由に使える財源と考えることはできないのではないか、と質問した。

 なぜ自由に使えないかといえば、インフレによって増えるのは税収だけではないからだ。公務員の人件費や年金給付、公共事業費なども増加する場合が多い。さらに、インフレに伴って長期金利が上昇すれば、国債の利払い費も増える。

 この質問に対して高市首相は、物価や金利の上昇が人件費、年金給付、利払い費などの歳出増加につながることに留意する必要があると認めた。ただし、税収の上振れを補正予算などの一時的な財源に利用すること自体は否定しなかった。

 この質疑から導かれる重要な点は、「インフレによる税収増を財源とする場合には、同時に生じる歳出増加を考慮しなければならない」ということだ。

 例えば、インフレによって税収が5兆円増えたとしても、人件費、社会保障費、国債費などが合計5兆円増加すれば、長期的に見れば財政収支は改善しない。もし5兆円の消費税減税を実施すれば、他に財源措置を講じない限り、財政赤字は5兆円拡大する。

 注意すべきは、税収増と歳出増の間には時間差があることだ。物価上昇による税収増は比較的早く表れることが多いが、歳出増は遅れて表れることが多い。また国債の利払い費は、低金利時代に発行された国債が満期を迎え、高金利の国債に借り換えられるまでは増加しない。

 このため、現在の税収増だけを見て将来の財政余力を判断することはできないのだ。

 税収の自然増を減税財源とするという説明は、財政全体を見れば成り立たない場合が多い。

 従って問題は、税収の自然増が幾らあるかではなく、歳出増加を差し引いた後に、どれだけの財政余力が生まれるかだ。

赤字国債増発せずとも財政悪化の場合も
債務削減や利払い費抑制の機会を失う

 もう一つ重要な問題は、税収の自然増を減税財源として利用することの機会費用に関することだ。

 具体的な数字例で考えてみよう。

 仮に、インフレによって税収が5兆円増えて、同時に人件費、社会保障費、国債費などの歳出が3兆円増加したとする。

 この場合、差し引き2兆円の財政余力が生まれる。政府はこの2兆円を消費税減税に利用することもできるし、赤字国債の発行額を減らすために使うこともできる。

 いま、もともとの赤字国債発行額が20兆円だったとしよう。減税しない場合、財政収支が2兆円改善するので、赤字国債発行額は18兆円に減少する。

 一方、2兆円の消費税減税を実施する場合には、税収増による財政収支の改善が減税によって相殺されるため、赤字国債発行額は20兆円のままだ。

 この場合、政府は「赤字国債を増発せずに減税を実施した」と説明することができる。

 しかし、減税を実施しなければ、赤字国債発行額を18兆円に減らすことができたはずだ。つまり、減税を実施した場合の赤字国債発行額は、減税を実施しなかった場合より2兆円多いのだ。