ここに本質的な問題がある。つまり「赤字国債を前年より増やさない」ということと、「減税によって財政を悪化させない」ということは、同じではないのだ。税収の自然増によって減税を実施した場合でも、減税しない場合と比べれば、財政収支は悪化し、政府債務を削減する機会が失われるのだ。
もちろん、消費税減税には家計負担を軽減するという便益がある。しかし、その便益を評価する際には、本来可能だった財政赤字の削減を断念することの費用も考慮しなければならない。
とりわけ政府債務が巨額で、長期金利が上昇している現在の日本では、国債発行額を抑える機会を失うことの意味は大きい。国債発行額を削減できれば、将来の借り換えや利払い費の負担も抑えられるからだ。
2027年度予算で明らかにすべき3点
減税の有無による財政余力や国債発行の推移
こうしたことを考えれば、政府が今後の2027年度予算編成で、明らかにすべきは、次の3点だ。
第一に、税収の自然増のうち、インフレによって生じる歳出増加を差し引いた後に、どれだけの財政余力が残るのかということだ。税収が増えても、それが人件費、社会保障費、国債費などの増加によって吸収されるのであれば、減税に利用できる追加的な財政余力は生まれない。
第二に、その財政余力が、減税期間を通じて維持されるのか。今回の消費税減税は2年間の期限付き措置だが、そうであっても、減税期間中の税収が予想を下回る可能性がある。また、減税終了時に税率を元に戻すことが政治的に困難になる可能性もある。
従って政府は、予定通り減税を終了する場合だけでなく、延長される場合の財政負担をも示すべきだ。
そして第三に、減税を実施する場合と実施しない場合とで、財政収支や赤字国債発行額がどう変化するのかを明らかにすることだ。
単に「赤字国債を増発しない」と説明するだけでは十分ではない。減税しなければ赤字国債発行額を減らせるのであれば、その機会を放棄して減税を実施することが合理的なのかを説明する必要がある。
日本はいま、超低金利時代から金利のある時代への転換期にある。巨額の政府債務を抱えていても利払い費の増加が抑制されていた従来の状況とは、全く異なる条件の下にある。
そのような時代で税収の自然増を減税財源に利用することには、従来以上の慎重さが求められる。
27年度予算案を巡る本質的な問題は、「減税財源を確保できるか」ということではない。「その増収を、財政赤字の削減に使わず、減税に使うことが、金利上昇と巨額の政府債務という条件の下で合理的なのか?」ということだ。
政府はこの問いに対し、減税を実施する場合と実施しない場合の財政見通しを比較し、具体的な数字によって説明する必要がある。それこそが、「赤字国債に頼らない」という形式的な財政規律から、財政の持続可能性を重視する実質的な財政規律への転換なのだ。
(一橋大学名誉教授 野口悠紀雄)







