最も不可解なのは、国が豊かになり、精神医療へアクセスできるようになればなるほど国民は不幸で、うつっぽく、不安が強くなっていくことだ。これは「豊かさのパラドックス」と言える。
過剰な豊かさがストレスになることに加え、私たちが心の健康について根本的に誤解しているところもあると思う。精神科医としてキャリアを積んできた中で私は、愛情深い家族に囲まれ、エリート教育を受け、裕福で、身体的には健康な若者たちが、人生を崩壊させるほどのうつや不安に苦しむのをたくさん見てきた。問題はトラウマや社会的疎外や貧困ではない。過剰な豊かさと、一瞬の快楽に絶え間なく晒され、脳が変わっていることなのだ。
大学を中退した20代男性に
「ゲーム断ち」を勧めた理由
20代前半の聡明で思慮深い青年が、ひどい不安とうつを訴え、私のところにやってきた。彼は大学を中退し、実家で暮らし、漠然と自殺を考えている状態だった。毎日テレビゲームばかりやっていて、夜遅くまでやめられないでいた。
20年前ならこのような患者にはまず抗うつ剤を処方しただろう。しかし今日ではまったく異なるものを勧める。ドーパミン断ちだ。私は、彼に1カ月間完全にテレビゲームをやめるように言った。
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「はい??????」と彼は言った。「なんでそうなるんですか!?ゲームをやっているときだけ安心できるのに」
次のように説明した。楽しいことをするとき、この場合ならテレビゲームをするとき、脳は報酬にかかわる神経伝達物質、ドーパミンを少し放出する。それでいい気分になる。しかし過去75年間の神経科学分野で最も重要な発見は、快楽と苦痛は脳の同じ領域で処理され、脳は両者のバランスを必死に保とうとするということなのだ。バランスが一方に傾くと、脳は中立状態に戻そうとして(神経科学者が「ホメオスタシス(恒常性)」と呼ぶ働き)、反対方向に傾けようとする。
ドーパミンが放出されるとすぐに、脳はそのドーパミンの増加に適応し、ドーパミンに刺激される受容体の数を減少させる。「ダウンレギュレーション(下向き調整)」をするのだ。苦痛の側に傾けることで脳はバランスを回復させる。快楽の後には二日酔いや気分の落ち込みを味わうものだろう。充分に待てば嫌な感覚は消えていき、中立状態に戻る。







