しかしその嫌な感覚を早く消したいがために、待つのではなく、快楽の源のところへ戻ってしまうことがよくある。

 それを毎日何時間、数週間、数カ月間と繰り返すと、脳の快楽に対する基準点が変化する。すると今度は、快楽を感じるためではなく、ただ普通でいるためにテレビゲームを続けなければならなくなる。そして、やめた途端、普遍的な依存の離脱症状、すなわち不安、イライラ、不眠、不快感、依存対象のことだけしか考えられなくなるという渇望を経験することになる。

男性の身に起きた
脳と心の大きな変化

 つまり、快楽の飽くなき追求は「無快感症」――あらゆる快楽を全く感じられなくなる状態──をもたらす。だからこそ、快楽を与える物質や行動を一定期間断つことで報酬回路がリセットされ、喜びを感じる能力が取り戻せるのだ。

 患者はこう説明されて、試してみる価値があると思ったようだ。

 彼は1カ月間テレビゲームを断った後やってきて、ここ数年で最もいい気分だと報告した。不安も減って、うつも減った。なぜか?それは、彼が報酬回路にドーパミンをあびせ続けることをやめ、脳にドーパミンの放出量を正常に戻す機会を与えたからだ。気分が良くなったことに彼自身が誰よりも驚いていた。これはよくあることだ。

 ドーパミンを追い求めている最中に、原因と結果を見極めるのは難しい。お気に入りの“依存物(ドラッグ)”から距離を置いて初めて、自分の人生や周囲の人々にそれがどんな影響を与えていたかが見えてくるのだ。

『脱ドーパミン中毒』書影『脱ドーパミン中毒』(アンナ・レンブケ著、恩蔵絢子訳、新潮新書)

 しかし、このプロセスが簡単だなどとウソはつかないでおこう。決して楽ではないのだ。どんな“ドラッグ”なのか、人や状況によっては、まるで水着姿でエベレストに登るようにも感じられるかもしれない。だからこそ計画を立て、一歩ずつ進み、周囲の人々からのサポートを得ることが必要になる。

 さらに、「依存を生み出す生活環境」(あらゆるものが“ドラッグ”化されてしまった世界)の問題は、個人だけでなく集団の問題だ。私たちが消費する、依存を引き起こしやすい強力な快楽商品を生産し、利益を得ている企業もまた、解決策を見出す努力をする責任がある。学校や政府、その他の大規模な機関は、健全な行動を促すためのガードレールやインセンティブをつくることができるのであり、そうすべきだ。

 しかし、私たち個人や個々の家族は、そうした機関が何かしてくれるのを待っているわけにはいかない。命が危険に晒されているのだから。私たちはこの場所から、今すぐできることを始める必要がある。一人ひとりが自分自身を変えていくことで、世界も変えていくことになる。