自動車とエレキが重なる
時代のインド

日本がインドに「中国の工場」を移すだけではいけない理由バレオの3-in-1 e-Axleに組み込まれる駆動用電動モーターのステーター(固定子)

 今日、自動車とエレクトロニクスの境界が、技術と事業の両面で重なり合ってきている。電気自動車(EV)だけでなく、ハイブリッド車でもモーターや電池、電力を制御する半導体が重要な役割を担う。運転支援や車内の情報サービスには、センサー、通信技術、ソフトウエアが欠かせない。機械としてのあるいは電器製品としての安全性や耐久性の重要性は変わらないが、その上に、ソフトウェア技術によって生み出す価値が積み重なっている。

 しかも、ソフト化が進むからといって、材料や製造技術の重要性が薄れるわけではない。例えば、データ通信を機器内で行うには電気ケーブルが必要だ。その電気ケーブルには配線をつなぐコネクターや、電気を通さず熱にも耐える樹脂が必要になる。優れた半導体やソフトウエアも、それを実際のクルマの中で安定して働かせる部品や材料があってこそ、製品の価値になる。

 したがって、自動車の将来を完成車メーカーだけで語ることも、エレキの将来を家電やスマートフォンだけで語ることも難しくなっている。どの企業が材料をつくり、誰が部品に加工し、どこで設計・評価するのか。そのつながりを見ることが、産業の競争力を理解する手掛かりになる。

 こうした問題意識から、2026年9月、筆者はインド西部のプネー周辺で、材料・自動車部品メーカーの工場や研究開発拠点を訪問した。インドで自動車が何台つくられるかだけでなく、その背後でどのような供給網や開発能力が育っているのかを見たかったのである。

エンバリオから見る
自動車とエレキの接点接点

日本がインドに「中国の工場」を移すだけではいけない理由EVの駆動系部品のモーター、インバータ、減速機が一体となったバレオの3in1 e-Axleの生産ライン

 その接点を考えるうえで注目したのが、以前いぜんにもこの連載で取り上げたドイツの高機能樹脂メーカー、エンバリオだ。樹脂というと身近なプラスチック製品を思い浮かべるかもしれないが、材料の性質を工夫することで、強度、耐熱性、電気を通しにくい性質などを部品に持たせることができる。同社は、こうした材料を自動車や電気・電子機器向けに供給している。

 例えば同社は、公表資料で、高電圧の急速充電用コネクターやAIデータセンターに使う絶縁材料を紹介している。自動車の電動化と情報通信の基盤を、共通する材料技術が支える。一見すると専門的な素材の話が、実は複数の成長産業をつなぐ話なのである。