調達先を評価する際には、購入価格に加え、供給が止まる可能性と、その際の損失を考慮する必要がある。別の国でも生産できる能力を持つ費用は、単なる重複ではなく、事業を続けるための備えとして捉えられる。ただし、同じ品質と必要量を実際に供給できて初めて、代替拠点は機能する。

 国内生産に集約すれば安全になるわけでもない。OECDの2025年のモデル分析では、供給網の広範な国内回帰は大きな経済的費用を伴い、必ずしも経済の安定性を高めない可能性が示されている。中国との取引をなくすことと、中国からの供給が止まっても対応できることは、別の目標なのである。

工場だけでなく
開発と学習の仕組みをつくる

日本がインドに「中国の工場」を移すだけではいけない理由マザーサンスミのワイヤーハーネス生産ライン

 では、インドにどのような能力が蓄積すれば、世界の顧客にとって選択肢となる供給拠点になるのか。

 バレオが今回の取材で強調したのは「ローカル・フォー・ローカル」だった。まずインド市場向けに技術と生産能力を構築し、その能力が成熟した後、輸送に適した製品などを海外にも展開するという考え方である。各社の現地化を、直ちに輸出中心の「世界の工場」づくりと同一視することはできない。

 ただ、国内需要に応える過程で技術が蓄積すれば、それが海外向けの競争力につながる可能性はある。成長市場があることの意味は、目先の販売先が増えることだけではない。投資を回収し、品質を磨き、人を育てるための仕事が継続して生まれることにもある。

 エンバリオは、プネーの研究開発拠点で、インドの道路や気候、顧客の要求に応じた材料開発を進めている。一方、必要な試験では横浜などの海外拠点も活用する。現地の開発能力を高めることは、海外との技術的な分業を断つことではない。マザーサンスミというインド資本の会社のワイヤーハーネス(自動車内の電線を束ねた部品)の工場でも、住友電装から学んだ生産の考え方を、日系自動車メーカー向けだけでなく、タタモータースやマヒンドラ向けにも展開しているとの説明を受けた。外国企業との協働で得た知識を、別の顧客にも応用することで、現地の能力が厚くなっていく。