アメリカの「合理的な取引」で日本が置き去りにされるリスク
今回の報道で最も重要なのは、アメリカが中国、ロシアと協力して国際機関のトップを選ぼうとしているという点にある。
アメリカにとって中国は最大の戦略的競争相手であり、ロシアともウクライナ戦争をめぐって対立している。
しかし、利益が一致する問題では、アメリカは中国やロシアとも協力する。トランプ政権の外交では、とりわけ国益を優先する取引が重視される。
ここで日本が考えなければならないのは、アメリカにとって合理的な取引が、日本にとっても合理的とは限らないという事実である。
例えば、アメリカが中国との経済交渉や安全保障上の合意を優先する場合、台湾海峡や東シナ海をめぐる日本の懸念が、必ずしも同じ優先順位で扱われるとは限らない。
今回の国連事務総長人事が、そのままアメリカによる日本の軽視を意味するわけではない。しかし、今回の構想が欧州諸国との十分な調整を伴わずに進められているのであれば、見逃せない。
イギリスとフランスはアメリカの主要な同盟国であり、安保理の常任理事国でもある。その両国よりも中国やロシアとの協議を優先する場面があるとすれば、同じことがアジアで起きない保証はない。
日本にとって台湾海峡は、遠く離れた地域の紛争ではない。国家の安全保障そのものに関わる問題である。だからこそ日本には、欧州やインド太平洋諸国との協力を深め、国際機関での発言力を確保することが求められる。そして、外交力を支える経済力と防衛力の強化も欠かせない。
オルバン氏の国連事務総長構想が実現するかどうかはまだ不透明だが、この構想は、「アメリカの同盟国であること」と「アメリカの国益が常に日本の国益と一致すること」は決して同じではないという国際政治の現実を浮き彫りにしている。
日本に必要なのは、アメリカとの同盟から距離を置くことではない。同盟を強固に維持しながらも、大国間の取引に自国の運命を委ねないだけの外交力と防衛力を備えることだ。
(評論家、翻訳家、千代田区議会議員 白川 司)







