言うまでもなく、これは完全なフィクションだ。日本人の多くは今のVIVANTと同じく、長谷川一夫や李香蘭というスターによる「虚構の物語」だと割り切って、純粋に楽しんでいた。
しかし、楽しみながらもしっかり「影響」を受けた。
観客の中にはこのドラマを通じて、「ものわかりの悪い中国には殴ってでもわからせてやらないと」という思想が刷り込まれてた者が多くいて、それが陸軍の中国侵攻の後押しにもなった。
「たかが映画やドラマじゃん、そんなもんを真に受けるやつはいないよ」とバカにしているうちに、気がついたら特定の方向に大衆が誘導されている、というのが「プロパガンダ・エンタメ」の恐ろしさなのだ。
もちろん、愛国プロパガンダ・エンタメ作品のプラスもある。映画「トップガン」のヒットで、アメリカ海軍の志望者が増えたように、VIVANT人気で定員割れが続く自衛隊の志望者が増える可能性もある。
ただ、自衛隊の関係者によれば、その中には「別班に入りたい」というように現実と虚構の区別がつかないピュアな若者もいるそうなので、愛国心が過度に刺激されて、シンシーや中国への憎しみを募らせてしまっているような人もいるかもしれない。
米軍が先の戦争で、日本が負けた理由を分析すると、「精神主義への傾倒」「敵を過小評価」などが挙がった。実はこれは戦前から戦中にかけて、映画、小説、マンガなど繰り返しエンタメとして大衆に繰り返し訴求されたものでもある。
紹介すればキリがないが、日本軍が強い精神力で敵を撃破したり、特攻や玉砕を美化するような物語が大量に市場に生み出され、大衆の人気を獲得した。アメリカなど西洋人を、日本人に比べて愚かで軟弱で、すぐに逃げ出すように描いたものも多かった。
つまり、我々は「エンタメ作品」にガッツリと影響を受けた結果、自分たちの力を過信して、敵の力を見誤り、惨敗した過去があるのだ。
「エンタメ作品」というのは、どんなデタラメや、プロパガンダも許される「免罪符」ではない。ドラマ制作者の皆さんは、先人たちのやったことを冷静に振り返ったうえで、上質なエンタメ作品を生み出していただきたい。








