文化人類学者のD・R・ホルムズ教授(ニューヨーク州立大学)はこの10年以上、世界の中央銀行に強い関心を示してきた。

 近年の金融政策は文化人類学的観点からもかなり興味深いものらしい。多くの中央銀行が市場の期待を制御することで経済を運営しようとしてきた。コミュニケーションが何よりも重視されている。それ故ホルムズ教授はこれを「言葉の経済」と描写している。

 実際、今年7月にはECBが、8月にはイングランド銀行がフォワードガイダンス(超低金利が長く続くことを言葉で市場に予想させる政策)を導入した。また、日銀は「2年程度でインフレ率を2%にする」と強調し続けることで国民のインフレ予想を押し上げようとしている。「ファイナンシャルタイムズ」紙のG・テット記者は、ホルムズ教授に共感し、FRB議長は言葉を巧みに操れる「マネタリー・シャーマン(金融まじない師)」であるべきと述べた。

 ところで、バーナンキ議長は、「シャーマン」であると同時に、以前このコラムで紹介したように、ドニゼッティのオペラ「愛の妙薬」に登場する薬売りにも似ている。その薬売りは、話術で村人たちに安ワインを万能薬と信じさせて販売する。ところが、「恋の病にさえも効く」と強く信じて疑わない青年が現れ、ニセ薬が奇跡を起こすことになる。