トランプ人脈 全解剖#8Photo:Bloomberg/gettyimages

日本製鉄の米USスチール買収が6月に完了した。これに関連し、日本製鉄が米国で投じたロビー活動費は、総額で748万ドル(約11億円)に達したことがダイヤモンド編集部の取材で分かった。利用したロビー会社は5社で、中にはドナルド・トランプ大統領に近いとされて急成長中の企業も名を連ねる。特集『トランプ人脈 全解剖』の#8では、日本製鉄の“悲願達成”を陰で支えたロビー活動に迫る。(ダイヤモンド編集部副編集長 大矢博之)

バイデン前大統領の禁止命令から大逆転
悲願達成を陰で支えたロビー活動

「バイデン前政権に理不尽にも却下されたが、トランプ政権において正しい判断を得た。(ドナルド・)トランプ大統領の優れた判断に心から敬意を表したい」

 日本製鉄の橋本英二会長は6月19日、米USスチールの完全子会社化を発表した記者会見でこう強調した。

 約1年半と長期にわたった日鉄のUSスチール買収計画。2023年12月の計画発表当初は、24年4~9月の買収完了を見込んでいた。ところが、米大統領選挙を控えていたこともあって政治問題化し、ジョー・バイデン前大統領から25年1月に買収計画の禁止命令を出された。

 絶望的な状況から逆転できたのは、トランプ大統領との直接交渉に成功したことが大きい。買収費用の約141億ドルに加え、28年までに総額約110億ドルをUSスチールに投資すると約束。さらに米政府に対して、経営の重要事項について拒否権を行使できる「黄金株」を発行するなどの大胆な譲歩を行い、買収の実現にこぎ着けた。

 ここまで交渉が難航した理由の一つに、日鉄の米国でのロビー活動軽視も指摘されていた。実際、日鉄が米国でロビー会社の利用を始めたのは買収計画を発表した23年第4四半期からだ。23年のロビー費用額もたった3万ドルで、米国のライバル企業よりも2桁小さい額であった。

 しかし、ここから日鉄はロビー活動を本格化させて巻き返しを図った。25年第2四半期までに投じた額は748万ドルに達し、ライバル企業のロビー費用の数倍だ。また、ロビー会社も5社利用しており、このうち1社はトランプ氏に近いことで有名で、現在急成長の企業でもある。

 ロビー活動がしっかりと機能したことも、日鉄の買収実現を支えた要素だっただろう。日鉄が利用したロビー会社はどこなのか。次ページでは、USスチール買収に絡む日鉄の米国でのロビー活動の全容に迫る。