まず成長テーマはフェーズ毎に異なる。3つの能力のうち、フェーズⅠでは目標共有力や情報分析力の獲得が中心になるが、職位が上がるにつれて事業実行力のウエイトが大きくなっている。

 これらの能力を獲得するために必要なのが、3つの仕事経験である。キャリア初期には、部下育成、変革参加、部門連携といった経験を個別に積んでいくが、フェーズが進むにしたがい、これら3つの経験が統合されていかなければならない。例えば、部長クラスになると、部門連携しながら変革を実行し、その中で部下を育成することが求められる。

 その際、経験を個人任せ、職場任せにせず、組織的に支援することが重要である。組織的支援には、研修、ワークショップ、情報交流のように、情報共有を促すタイプの支援と、変革プロジェクトの公募、ジョブローテーション、社内塾のように、経験そのものをリッチにする支援がある。

 最後に忘れてはならないのが評価・診断である。組織メンバーが質の高い経験を積み、必要な能力を獲得しているか、適切な姿勢で仕事にのぞんでいるか、上司から支援を受けているか等をサーベイによって定期的にモニタリングする必要があるだろう。こうした支援策を組織的・計画的に実施することで、マネジャーの経験学習の質を高めることができるのである。

まとめ

 放っておいても良質な経験を積むことができたバブル時代までとは異なり、企業内の「経験からの学習」を偶然に任していては、マネジャーの力不足を解消することはできない。今求められているのは、意図的に経験学習をマネジメントする工夫である。

 シリーズ3回の内容をまとめると次のように要約できるだろう。すなわち、マネジャーを成長させるために重要なマネジメントは、①好奇心・挑戦・独自性を大切にする「学習志向」を刺激しながら、②社内外のキーパーソンと対話する機会を提供し、③「連携」「変革」「育成」といった良質な経験を、若いうちから計画的に積ませることである。

 これらの施策を実行することが、優れたマネジャーの育成だけでなく若手・中堅の成長、ひいては企業全体の発展につながると考えられる。