「社会人として
もっとも大切なこと」とは

 目次に並べられた50項目の見出しを拾ってみると、たとえば「何があっても遅刻はするな」「メールは24時間以内に返信せよ」「朝のあいさつはハキハキと」「仕事は盗んで、真似るもの」「目上の人を尊敬せよ」などなど、きわめて当たり前の常識が、コンテンツのかなりの部分を占めていることがわかります。高度経済成長期に青春時代を謳歌した中高年の元企業戦士なら、かつて日本企業の美徳とされた滅私奉公の精神を思い起こし、50項目の見出し一つ一つにいちいち頷きながら読み進んでいくに違いありません。

 著者の岩瀬氏は、その元企業戦士たちの息子世代の経営者(ライフネット生命保険副社長)です。父親=モーレツ世代への反抗心や対抗心は微塵も出さず、まして「目上の人だからといって尊敬する必要はない」などとうそぶくようなこともせず、「当たり前のことを当たり前にできるということが社会人として成長していくうえでは最も大切なこと」だと大真面目に訴えているのです。

 その点が、新鮮といえば新鮮です。「終身雇用」や「年功序列」が崩れ去っていく過程で、日本の会社やビジネスパーソンが当たり前のように承継してきた常識や基本動作といったものまでが、いつの間にかどこかへ雲散してしまった。すなわち、あいさつ一つ、敬語の使い方一つとっても、それらが日本の会社やビジネスパーソンにおいてきちんとなされる保証はなくなったのです。あいさつや言葉遣いに限らず、「相手との距離感を誤るな」「仕事は根回し」「情報は原点に当たれ」「コミュニケーションは、メールand電話」といった項目についても、当たり前のことを当たり前にすることの重要性が強調されています。

 一つ一つの項目を丁寧に心に落とし込んで、少しだけ行動を変えてみてください。しばらくすると、それぞれの行動が相乗効果を生み出し、驚くべきスピードで成長する自分を実感できる。僕はそう信じています。(232~233ページ)

 お金に対するアドバイスも、「何はともあれ貯蓄せよ」。奇をてらったものはありません。年金などへの将来不安が解消されない中で、保守的で現実的なアドバイスにならざるをえないのは仕方がないことなのかもしれません。「宵越しのゼニは持たない」をモットーに、ひたすら自分に投資することで将来の成長の糧とするやり方が旧世代の発想だとすれば、貯蓄をして原資を作り、投資をするためにお金の勉強をする。勉強することで自分へのリターンは確実に返ってくると考えるのが著者世代の発想なのでしょう。また、生まれた時から身近にコンビニエンスストアがあり、それを自身の生活に組み込みながらライフスタイルを形づくってきた30代以下の世代にとっては、コンビニでの買い物習慣が貯蓄や家計と密接な関係を持っているようです。

 ある程度金額がまとまると、貯蓄を資産と認識するようになります。30万円、50万円、100万円。その金額は人それぞれです。そこで引き続き貯蓄するのか、株を買うのか、自動車を手に入れるのかなどと考える。資産をどう活用するのかという観点が生まれてくるのです。

学生時代までは、おそらく消費することしか考えていなかったと思います。貯蓄をすることで、投資という発想を持つようになるのです。投資するためには、投資対象の商品内容を知らなければなりません。投資収益率も考えるようになるでしょう。貯蓄をすることが、お金のリテラシーを身につけることにつながるのです。(208ページ)

 コンビニで1日当たり500円の買い物をしたとすると、週5日の勤務で月に1万円の出費があるということです。これを年換算すると、12万円という計算になります。果たしてコンビニでの買い物に年間12万円かけていいのか。あなたがこの金額をどう考えるかということです。(213ページ)