スーパー台風による
高さ7mの高潮が8000人の命を奪った

 2013年の11月8日、フィリピンのレイテ島タクロバンを「スーパー台風(*1)」ハイエン(*2)が襲いました。秒速65mもの強風によってほとんどの家屋が破壊され、1200万人が被災しました。しかしその8000人ともいわれる死者・行方不明者のほとんどは、「高潮(storm surge)」によるものでした。

出所「Eyewitness footage of Typhoon Haiyan washing house away」YouTube

 その前日、アキノ大統領は確かに「最大6mに達する高潮が来る可能性がある」と国民に向かって警告を発していました。「繰り返して言うが、これはかなり危険だ」と。

 しかし気象当局によるその警告は、行政や住民自身を大きく動かすことはありませんでした。スーパー台風ハイエンの威力はあまりに凄まじく、そして誰も高潮の危険さ、その破壊力を理解しなかったからです。いや、言葉すら、知りませんでした。

 高潮は特殊な気象用語として「storm surge」と伝えられ、その意味を把握する者はいませんでした。そして、避難の仕方もわからず、8000人が命を落としました。

高潮とは何なのか?
「吹き寄せ効果」と「吸い上げ効果」

 われわれ日本人だって同じです。高潮という言葉だけはよく知っていても、そして、日本国史上最悪の伊勢湾台風被害が高潮によってもたらされたと、仮に知っていても、そこまでです。その意味や構造を説明できるひとはほとんどいないでしょう。

 高潮とは何で、そして、高潮は何故に恐ろしいのでしょうか。

*1 スーパー台風とは、これまでの分類を超える規模の台風をいう。最大風速が秒速54mを超えるものが「猛烈な台風」であるのに対し、秒速67m(130ノット)を超えるものが「スーパー台風」とされる。
*2 Haiyanは気象庁がリストに従って付けるアジア名のひとつで、中国語でウミツバメの意味。日本名は台風30号、現地名はYolanda。