世界的な景気減速のなか、生き残りをかけた企業競争力強化や業務効率の向上、コスト削減が強く求められている。そんななかでIT投資については、費用がかさむばかりで効果が見えにくい、という声が多くある。しかし一方で、ITが企業活動の重要なインフラであり、ITによって高い付加価値を生み出していることも確かだ。本連載では、不況時におけるIT投資のあり方、こんなときだからこそ生きるIT活用法などを全4回にわたって紹介していく。

IT投資は2つに分けて考えるべき

 「IT投資は“定常費用”と“戦略投資”に分けることができます。この2つを一緒にして考えてはいけません」と話すのは、IT動向に詳しい経営コンサルティング会社アイ・ティ・アールの内山悟志・代表取締役。「同じIT投資であっても、目的によって期待する効果は変わってくるはず。それをごっちゃにして“リターンが見えない”と嘆いていても意味はないのです」と続ける。

内山悟志(アイ・ティ・アール代表取締役)
内山悟志(アイ・ティ・アール代表取締役)
大手外資系企業の情報システム部門やアナリストなどを経て、1994年に、情報技術研究所(現在のアイ・ティ・アール)を設立。大手ユーザー企業のIT戦略立案・実行のアドバイスおよびコンサルティングサービスを提供している。IT分野におけるアナリストの草分け的存在として知られる。著書に、『日本版SOX法 IT統制実践法』(ソフト・リサーチ・センター:共著)など。

 財務会計では、費用科目は、性格上どうしてもかかってしまう「固定費」と、目的や状況に合わせて増減できる「変動費」に分けることができるが、IT投資にはその両方が混在する。

 どうしても必要な“定常費用”としては、セキュリティや内部統制など社会的責任を果たすためのもの、電子メールや受発注システムなど業務上必要不可欠なもの、サーバやネットワークに人件費などを含めたITインフラを運用するためのもの、が挙げられる。こうした定常費用は、いわば「ビジネスに参戦するための資格としてのIT」(内山氏)であり、いかにコストを抑えて、性能を確保できるかという視点で見ることが必要だ。

 特に保守・運用費については、人件費を含めて費用の“見える化”を図り、どこでどんな費用が発生しているかを詳細に分析すべきだろう。ここでのポイントは、求めるサービスレベルが最適なコストで実行されているかどうかだ。完璧を期するあまり過剰な投資が行なわれているケースも多い。「システムごとの保守・運用を行なっているために、費用の重複が発生しているケースも多く見られます。今後は、ITの資産管理やユーザーへのサービス管理の視点を取り入れた統合的な保守・運用が求められるでしょう」と内山氏は指摘する。