
「人的資本経営」のキーワードとして「アルムナイ」が注目されている。企業が自社の退職者である「アルムナイ」とどのような関係(アルムナイ・リレーションシップ)を築いていくかは、人材の流動性が高まっている時代でことさら重要だ。さまざまなメディアからの出演依頼が続き、昨年(2024年)には著書も発表した、「アルムナイ」知見についての第一人者・鈴木仁志さん(株式会社ハッカズーク代表取締役CEO兼アルムナイ研究所研究員)による、「HRオンライン」連載=「アルムナイを考える」の第10回をお届けする。(ダイヤモンド社 人材開発編集部)
>>連載第1回 「退職したら関係ない!」はあり得ない――適切な「辞められ方」「辞め方」を考える
>>連載第2回 誰もが明日から実践できる「辞め方改革」が、あなたと企業を幸せにする理由
>>連載第3回 「辞め方」と「辞められ方」――プロサッカークラブに見る“アルムナイ”の大切さ
>>連載第4回 “出戻り社員”が、会社と本人を幸せにする理由と、お互いが成功する方法
>>連載第5回 内定辞退者や早期退職者に対する“負の感情”が減る「辞め方改革」とは?
>>連載第6回 「急がば回れ」の姿勢が、“アルムナイ採用”をしっかり成功させていく
>>連載第7回 「アルムナイ」の広がりに伴う“さまざまな声”について、私がいま思うこと
>>連載第8回 いま、このタイミングで、“アルムナイ”の書籍を執筆して気づいたこと
>>連載第9回 メンバーシップ型の日本企業こそ、アルムナイ・リレーションシップをつくる意味がある
アルムナイ採用とタレントプール採用はどう違う?
この1年で、「アルムナイ採用」や「リファラル採用」と並んで、「タレントプール採用」という言葉を耳にする機会が格段に増えました。私たちハッカズークにも、かつては「リファラル採用とアルムナイ採用を連携させたい」というご相談が多かったのですが、最近では「タレントプール採用の一部としてアルムナイ採用をやりたい」という声が急増しています。
今回は、実際に企業がどのような問題意識のもと、アルムナイ施策に取り組み、どのように試行錯誤しながら方向転換したのか――その実例をご紹介します。
まず押さえておきたいのは、アルムナイ採用とタレントプール採用の対象者が「似て非なる存在」であるという点です。タレントプール採用とは、将来的な採用候補者となり得る人材をあらかじめリスト化・管理する仕組みを採用に活かすこと。過去の内定辞退者や選考経験者が対象の中心で、継続的な関係構築を通じて、タイミングが合えば入社につなげていくというのが基本の思想です。
一方で、アルムナイ採用は、すでに一度自社で働いた経験を持ち、企業文化や業務内容を理解しているという点で、関係性の深さがまったく異なります。そのため、他の候補者(自社で働いた経験のない者)と同列に扱う設計ではアルムナイに響かず、効果が出ないケースが少なくありません。