「伝え方の技術」その1
「感謝」
これは、自分の考えていることをストレートに言うのではなく、「感謝」から言うことで、相手と気持ちを近づける技術です。人は、先に「ありがとう」と言われると、瞬間的に、ほのかな信頼関係が生まれます。するとそのあとの話を肯定的にうけとめやすくなるのです。
今回で言うなら、「意思表示をしていただきまして、ありがとうございます」というポイント。こうすると、賛成した味方だけでなく反対した人にも好意的に受け止められるように伝わります。今回、橋下さんはこの「感謝」を多くのポイントで使っています。
「政治家冥利につきる、いろいろな活動をやらせてもらいまして、本当にありがたく思っています」
「本当にありがとうございました、ということを市民のみなさんに言いたいです」
「本当に納税者のみなさんには申し訳ないですけど、大変ありがたい、本当に幸せな7年半だったなと思います」
こちらは、「伝え方の技術」7つの切り口のうち、1つ「感謝」です。「人は好意を受け取ると、その相手に好意を返したいという気持ちが働く」という、心理学の「好意の返報性」でも説明ができます。
橋下徹さんの使った技術は、
誰にでも使える
橋下徹さんは、もともと弁護士だったこともあり、とっさのときに素晴らしいコトバを閃くことのできる伝え方の天才だと思います。伝え方とは、一般的にセンスや才能だと思われています。だから、どうしようもないものだとも思われています。
ですがこのように技術を知っていれば、天才でなくても誰でも使うことができるのです。
この技術は、政治家でなくても、私たちの生活のさまざまな場面で使うことができます。たとえば、じぶんの役割でもないシチュエーションで、先輩から、
「この机、移動して」
と言われると「面倒だな」「なんで私が?」と感じたりすると思いますが、こんなとき
「この机、移動して。ありがとうね!」
と言われると動きやすいですよね。人は、先に「ありがとう」と言われると、相手のお願いを素直に受け取りやすくなるのです。もちろん100%成功するわけではありません。ですが、橋下さんが実際に人の心を動かしたように、人の心を動かす「伝え方のレシピ」があるのです。
「伝え方の技術」その2
「認められたい欲」
もうひとつ。橋下さんの会見で、多くの人たちの気持ちをつかんだ伝え方があります。
「大阪市民のみなさんがおそらく全国で一番政治や行政に精通されている市民ではないかと思っています」
こちらは、伝え方の技術の「認められたい欲」。人は認められると、その期待にこたえようという気持ちが生まれます。賛成した人はもちろん、反対をした人が聞いたとしても心地よく聞こえ、橋下さんのコトバに多くの人がぐっと引き込まれました。この「認められたい欲」は、心理学の承認欲求」でも説明できます。
橋下さんはこれまで、メディアとちょくちょく争ってきましたが、この会見ではメディアにも「認められたい欲」を使っています。
「メディアのみなさん、本当に報道の自由は絶対に必要で、僕もやいのやいのメディアには言っているけど、この報道の自由というのが民主主義を支える根幹ですから」
なんどもやりあって、橋下さんを良く思っていないメディアの方もいたでしょう。ですが、こう認められると調子がくるうというか、橋下さんを心情的に悪く書きにくいですよね。事実、この会見のあとにどのメディアも橋下さんを否定的に書いているメディアがぐっと減りました。