料理にレシピがあるように、伝え方にもレシピがあります。レシピを身につけるためには、方法を知って実践をすること。
『伝え方が9割(2)』では、公開したレシピを即使ってもらえるように、
料理教室さながら、実況中継を交えて徹底的にお教えします!

伝え方で結果が変わる!

 彼女は完全に怒っていました。
 ムリもありません。メーカーに勤める永井宏さん(仮名)は、平日はおろか、土日も仕事。たまに会うと、疲れている。「これではつき合ってないのと同じ」とさえ思ったりもしました。そして、ついにその日は来ました。ふたりで食事の予定をしていた金曜の夜。永井さんにどうしても抜けられない会議が入ってしまい、土壇場でキャンセルとなったのです。

 翌日の土曜日、ランチをすることになったふたり。そのテーブルには、レストランの店員さえも近づけないほどの緊迫感がありました。グラスの水が、心なしか震えています。彼女は言いました。

「仕事と私、どっちが大事なの?」

 究極の質問です。
 答え方によっては、ふたりの関係に、修復不可能なヒビが入るでしょう。

 そこでもし、永井さんが、

「ごめん。でも俺だって、好きで仕事ばかりしてる訳じゃないし」

 ……と言っていたら、きっと完全にアウトだったでしょう。
 彼女は血管をぶちぶち切りながら怒ったに違いありません。
 グラスの水は、鋭く波だってこぼれていたでしょう。

 ですが、そこで永井さんはこう言ったのです。

「ごめん。でも誰より優子にだけはそんなふうに思わせたくなかった。ごめんな。じぶんが情けないよ」

 思わぬ優しいコトバ……彼女は徐々に怒りが消えていくのがわかりました。
そして、「言い過ぎたかな。彼だって仕事、がんばってるんだし」とも思い、ちょっと反省。

 永井さんに大切に思われていることがわかり、以前よりも彼への愛が深まることさえ感じました。

 ピンチを「コンマ1ミリで逆転」した彼のひとこと。
 決して狙って口先で言っただけではなく心から湧き上がったコトバでした。
そしてそのコトバは、「ノー」を「イエス」に変える技術の切り口「あなた限定」だったのです。

 人は「あなただけ」という特別感が好きです。
「あなただけ」「あなたしか」と、その人以外ではダメで、「あなたこそ選ばれた人」であることを伝えるのです。

 そう言われると、じぶんだけ限定という優越感を感じ、そう言ってくれる相手の話にこたえたくなるのです。