構造改革を経て多くの日本企業が過去最高益を記録している。とはいえ、未来に目を向ければ「持続的成長の実現」は依然として大きな課題だ。そして、持続的成長を可能にする鍵は、時代を先取りして自らが変革し続けることができるかどうか、すなわち組織の「自己変革力」である。
多数の企業変革に関わってきたデロイト トーマツ コンサルティング パートナーの松江英夫が、経営の最前線で果敢に挑み続ける経営トップとの対談を通じ、持続的成長に向けて日本企業に求められる経営アジェンダと変革の秘訣を解き明かす。
連載第14回では、持続的成長を支える、次代を担う人材を如何に育てていくか、JVCケンウッド代表取締役会長 兼 執行役員最高経営責任者の河原春郎氏にお話を伺う。

【経営と現場のつながり】
経営と現場をつなぐことも経営者の大切な役割

松江 投資についてリスクを取った決定ができるかに加えて、目利きの感覚があると思うのですが、それはどう養うものなのでしょうか。

河原春郎(かわはら・はるお)
JVCケンウッド代表取締役会長 兼 執行役員最高経営責任者。1961年東芝に入社。システムエンジニアとしてコンピュータソフトウェア開発に約20年間携わった後、米国UTC社との合弁による燃料電池事業、全社経営戦略、グループ経営などを歴任。1996年に取締役。2000年よりリップルウッド・ジャパンのシニア・アドバイザーとしてM&Aなどを担当。2002年6月にケンウッドの取締役社長に就任。2008年10月にケンウッドと日本ビクターの経営統合を実現し、代表取締役会長に就任。2011年5月にCEOを退任後、2013年11月より現職に復帰。

河原 私は二つほど非常に貴重なソースをもっていると思っています。私は1960年代からアメリカの電気学会に所属しています。もちろん日本の電気学会にも入っていますが、アメリカ電気学会からは機関誌が毎月来るんです。そこに世界の先端技術情報が入っていて、それを見ていると世界で何が動いているかよくわかるんです。それからもうひとつが、2001年に始めたベンチャーを支援するベテランの会です。ここでは今先端にいるベンチャーの人たちがいろいろなことを説明してくれて、それについて議論をしています。今の若い人たちの先端のビジネスは今の足の速いITの世界で何が起こっているか理解するのに役立ちます。

松江 組織の中からはなかなかそういった情報入ってこないのでしょうか。

河原 内部にいただけでは絶対に出てこないので、外部と接触しないとダメです。やはり内部の人は日々の仕事に追われていますから。私が国際会議やベンチャー経営者との接点に時間を割くのは、外から世界の動きを見ないといけないと考えているからです。

松江 イノベーションを起こすアメリカの会社は比較的オープンに外と接点を持っている印象があります。

河原 人の出入りが激しいのはアメリカの会社の特徴です。いろいろな素地を持った人が年中出入りしているので、社内にいても新しい情報に触れる機会が多いのではないでしょうか。アメリカの友人から聞いた話では、シリコンバレーあたりで働く人は平均5回は転職するんだそうです。5回目ぐらいに、ここが自分に合っているかなと思う会社にたどり着くそうですが、それだけ出入り激しい。

松江 たしかに人の動きがあると、本当に情報も入るし、組織が硬直化しないという効果もありますよね。

河原 私の友人が見た話ですが、スティーブ・ジョブズはニュージャージーのプリンストン大学に講演した際に、講演と夕食の合間に席を立って講演の質疑で知った情報を西海岸の設計の責任者に電話で直接伝えて、開発中の商品の設計や技術に役に立つことを指示していたそうです。あれだけのCEOが現場の声をそのまま設計者と議論している。スピード感が違いますよね。

松江 河原さんも若い技術者とお話される機会はありますか。

電子コックピット

河原 私は、次世代の事業開発タスクフォースのリーダーをしているので、コ・リーダーとして現場のリーダークラスの人と今でも一緒に議論しています。たとえば、次世代自動車の装備のi-ADAS(アイエーダス=イノベーティブ・アドバンスド・ドライバーズ・アシスタンス・システム)というものです。電子コックピットと言うのがわかりやすいですが、今の運転席を全部電子化することをやっています。それからもう一つがブロードバンド。情報量が飛躍的に多い映像や画像を無線として送る開発です。そして3つめがカメラです。2年間の努力が実って、2年前に私どもはCMOSセンサーの会社を買収しました。素晴らしいセンサーができたので民生用のカメラからプロ仕様のカメラを手がけようと思っています。