実行にはスピード感も重要です。施策の実行にいたずらに時間をかけていると、現場の人々の実行に対するコミットメントが薄れて、次第にモメンタム(勢い)が失われていきます。有事においては、時間との戦いがすべてです。リーダーは緊張感を持続させながら現場の人々を鼓舞して、スピーディに実行を推進していく使命を担っているのです。

――そして、第3のカテゴリが「組織を統率していくスキル」ですね。

この「組織を統率していくスキル」のうち、
「7. ゴールを示し、チームを組成・運営する力」
「8. ステークホルダーの利害を調整し、合意を形成する力」
は、実行するための力の一部です。この8番目までの力を発揮できるようになれば、リーダーは組織が抱える困難な状況を改善できるようになります。

ただ、私としては、現場のリーダーには有事を乗り越えた、さらにその先も考えてほしいと思っています。そこで9つ目のスキルとして、
「9. 部下に権限を委譲し、より大きな役割を果たす力」
を入れました。

部下に仕事を任せて、権限を委譲することで、次の人材が育つきっかけになります。未来のリーダーを育てることも、現リーダーの重要なミッションなのです。さらに、リーダー自身にとっても、現在の仕事から離れることで自分の役割を再考し、もっと大きな仕事に挑戦する機会を手にすることができます。

――著書のタイトルを、ただのリーダーではなく、『プロフェッショナル・リーダー』とした意図は?

ここで挙げた9つのスキルは、特定の組織、特定の状況のみに通用するものではなく、さまざまな有事に対応できる汎用性があります。

たとえば、本書において主人公は、中国の赤字工場の再建や米国の企業との事業統合を成功させています。もし次に「タイの工場を立て直してこい」「海外企業をもう一社買収するぞ」と言われれば、確実に成果を出すだろうと思います。自らの力で難局を乗り切り、9つのスキルを自分のものにできていれば、次の機会でも必ずそれを発揮できます。また、現在の会社を辞めて、別の会社に移ったとしても、その新しい職場で現場のリーダーとして活躍できるはずです。「プロフェッショナル」という言葉には、どんな環境でも活躍できる、リーダーとしての理想的なあり方をこめています。

今の時代、日本企業で必要とされているのも、まさにこうしたプロフェッショナルな現場のリーダーなのです。業績不振や海外進出などは、どんな業界、どんな会社においても起こりうることです。そうした経営環境において、事業再生や海外企業の買収・統合などを確実に実行できる人材のニーズは年々高まっています。実際、一部の先進的な企業は、有事に対応できる人材を積極的に社外から採用するようになっています。