ホームレスと一緒に働く

 大学時代に抱いたそんな思いを形にするべく、貸農園の管理を4人のホームレス男性に任せてみたものの、当初はきちんと働いてくれるか心配でした。ところが、「きっちりまじめに仕事をするうえに、日雇いの仕事をやっていた方が多く、シャベルの使い方なども慣れていて農作業向きだということがわかりました」

 週に一度、時給は800円という条件でも、「空き缶拾いを一晩中やっても、2,000円程度。800円もいただけるなんてありがたい」と、手を抜くことはなかったそうです。

 2011年からは、寮を持っている支援団体と共に「就農プログラム」として、新たに受け入れることにしました。

 ところが、今度は別の問題に直面します。支援団体の寮に入っている人は基本的に生活保護を受けており、働かずに生活できてしまっているため、ホームレスの人よりも勤労意欲、社会復帰への意識が低い人も少なくなかったのです。「就職先となる熊本の農家の初任給は約12万円。ところが、東京の生活保護費は約12万7000円。収入は減り、病院代は自費負担になってしまう。生活保護から脱却するためには、『働くとは何か』ということを問うところから始めなければなりませんでした」

青空の下で学ぶ農スクール

 2011年、2012年と「就農プログラム」を行ったノウハウを生かして始めたのが「再生・再挑戦支援プログラム農スクール」事業です。導入編・基礎編・就職準備編の3タームで約8カ月の間に、週に一度の農作業を通して、自分と向き合い、「働く意味」を探しながら、農業分野への就職を支援します。

 カリキュラムは、毎週のワークノートの提出と農作業が中心です。ワークノートでは、作業の感想や、今日の作業で自慢できることを書き出す、といった課題を提出してもらい、最終的には自分なりの目標を見つけられるよう誘導していきます。

 それ以外のカリキュラムは全て農作業をしながら行います。「参加者には成功体験が少ない人が多く、『俺はどうせ無理』とチャレンジから逃げてしまう傾向が強いのです。だから、部屋の中で鉛筆を持って『自分のいいところを書き出す』といった頭の中を整理するワークをするよりも、自分たちが育てたトマトやナスが立派な実になっていくことを経験し、収穫という成功体験を得るほうが確かな自信になるんです」

 また、青空の下で農作業を行いながらのほうが話もしやすく、一人ひとりとの面談も他の参加者に聞かれないよう配慮しつつ、農作業をしながら行うそうです。

 プログラムを進めていくうえで、難しいのは「ボス」のマネジメント。帰ることができる家や家族のない参加者が多いためか、居場所、特に心理的居場所に対する執着心が強い傾向があり、「リーダーになることでより良い居場所を確保しようとする」そうで、参加者間でリーダー争いが起きます。「リーダーが決まった後、次にリーダーは作業の進め方などの実権を取ろうとする場合があるので、参加者にルールを守ってもらうことや、私とリーダーとの関係性には注意を払う必要があります」