職場のストレス要因が、心身にどう影響するかを調べるモデルがある。「JDCS(Job Demand-control-support)モデル」もその一つ。

 JDCSモデルは、仕事の要求度(D)と仕事のコントロール度(C)に加え、上司や同僚のサポート(S)の有無がどう影響するかを調べる際によく利用される。

 仕事の要求度は(1)量的負荷、(2)仕事上の突発的な出来事、(3)職場の対人関係など。仕事のコントロール度は(1)仕事上の裁量権や自由度、(2)意思決定の権限、(3)スキルの自律性が要素となる。最もハイリスクな状況は「要求度が高いのに裁量権や自由度が少なく、サポートも望めない」ケース。うなずく向きも多いだろう。仕事のストレスから過食や深酒に走り、メタボリック症候群(メタボ)一直線という人もいるはずだ。

 さて、先日オーストラリア・アデレード大学の研究グループからJDCSモデルを使って、仕事のストレスと体格指数(BMI)と、メタボの存在を示すウエスト径に関する知見が報告された。

 調査は平均年齢48歳の男女450人(男性220人、女性230人)を対象に、電話での聞き取りと身長・体重測定を実施。対象者は管理職、技術職のほか、ホワイトカラー、パートタイマーと様々で、それぞれJDCSモデルによるストレス度を評価した。

 職業や性別、収入、教育程度などの影響を調整し、JDCS要素とウエスト径との関係を分析した結果、技術職で裁量権の自由が利く人は、有意にBMIが低く、ウエスト径が細かった。その一方で、意思決定の権限があると、ウエスト径が増える傾向が明らかになったのだ。従来、意思決定職はストレスが少なく、心身への影響は小さい、とされていたのだが。

 先行き不透明な現代社会では、意思決定権が大きな負荷になる。まして、各種ハラスメントのリスクで身動きがとれず、本来あるはずの「裁量権」や「サポート」が失われているのだから。

 現代人の理想の働き方は、「アメーバ」のように全員が自己裁量権の範囲で働くこと、なのかもしれない。

(取材・構成/医学ライター・井手ゆきえ)