国家間のパワーバランスを
地理的条件を踏まえて捉える

 日本貿易振興機構(ジェトロ)の中東アフリカ担当者は「ISが現れて以来、日系企業の中東への投資が減っている。既に進出している企業も出張を控えるなどの影響が出ている」と話す。成長が鈍化する新興国でテロのリスクが高まれば、投資や消費がさらに冷え込む要因となってしまう。中東の不安定化は、言うまでもなく日本のエネルギー危機に直結する。

 水面に投じられた小石の波紋のように、ある地域の局地的なテロや紛争が世界中に影響を広げていく。波紋の移ろいを予測するのは極めて難しい。

 複雑怪奇な国際情勢の理解を助ける学術的な視点として今、地政学に注目が集まっている。国際政治や軍事、そして経済など国家間のパワーバランスを、各国の地理的条件を踏まえて捉える学問だ。

 世界で初めて地政学という言葉を使ったスウェーデンの政治学者、ルドルフ・チェーレンは、国家を「有機体」と見なしたが、であれば国家の動向を知るために着目すべきは、その「肉体」である国土の位置と形状ということになる。

 実際、世界のキープレーヤーたちの思惑も、地図を眺めながらだと理解しやすいところがある。

 米国が長く「世界の警察官」を自任してこられたのは、国境を接して緊張関係にある国が少なく、欧州やアジアの大国からも離れているため、世界で起こる争いを安全地帯から監視できたためだ。

 ロシアがあれほど広い国土を持ちながら、いつの時代も南に勢力を広げたがるのは、使い勝手の良い「凍らない港」を確保したいからに他ならない。

 また、陸続きに国境を接する国が14もあり、常に陸側に意識を配らざるを得なかった中国は、日本を抜き米国に次ぐ経済大国になって自信を付けたことで、日本のある海側に野心を向け始めた。

 さらに、国家の枠組みを超えて拡散・連携するISのような非国家組織も、領土拡大という土地に執着した目的を持つ以上、その行動原理を読み解くために地政学的アプローチは不可欠になる。