【斉藤】一方で、「Why (なんで?)」という問いかけに答えるためには、「Because(なぜなら)」で答えないといけませんが、社会科学でも自然科学でも「これこそが原因だ」と言い切れるようなものにはなかなかたどり着けませんよね。

最初はすべて仮説ですし、仮説を検証しきったとしても、一定の不確実性が残るわけですから……。未知なる存在への耐性、いや「未踏の知」への憧れがないと、考えることを愉しむことはできないです

津田久資(つだ ひさし)東京大学法学部、および、カリフォルニア大学バークレー校経営大学院(MBA)卒業。
博報堂、ボストン コンサルティング グループなどで一貫して新商品開発、ブランディングを含むマーケティング戦略の立案・実行にあたる。
現在、AUGUST-A株式会社代表として、各社のコンサルティング業務に従事。また、アカデミーヒルズや大手企業内の研修において、論理思考・戦略思考の講座を多数担当。表層的なツール解説に終始することなく、ごくシンプルな言葉で思考の本質に迫る研修スタイルに定評があり、のべ1万人以上の指導実績を持つ。
著書に『あの人はなぜ、東大卒に勝てるのか』『世界一わかりやすいロジカルシンキングの授業』などがある。

【津田】社会科学は特にそうですね。

【斉藤】あとは、自然科学のなかでも、天文学のような分野もそういう面があります。いずれにせよ、知の最先端に立ったときに試される勇気のようなものを、従来の受験勉強を通じて試すのは難しいでしょう。

【津田】それを問えるような入試をどうやってつくっていくかですよね。

イェール大に行ってまで
センター試験の点数を気にする日本人

【斉藤】津田さんは灘高のご出身とのことですが、じつは先日、灘高元教頭の倉石寛先生とお話ししたんですよ。

【津田】おお、そうですか。僕が灘高にいたときは、まだ大学を出たばかりの若手の先生でした。

【斉藤】倉石先生がおっしゃったことで印象に残っているのが、「昔は『試験は必要悪。しょせん試験だ』という態度が灘高生にはけっこうあった」というお話です。でも最近は灘高も含めて試験に必死になっているんじゃないか、と倉石先生は懸念されていました。

【津田】斉藤先生の前で言うのも気が引けますが……、それは塾のせいじゃないでしょうか

「秘密結社のような『エリート塾』を礼賛する風潮が広がっているが、そこで育成されるのは『マニュアルマニア』にすぎない」(斉藤氏)

【斉藤】ですよね。我々も含めて塾のせいなんですよ。僕は塾を経営していながら、いつも「塾なんてなくなればいい」と思っているんです

今はおかしなことが起こっていて、塾の影響力に学校の授業が引きずられ、学校が塾のようになっている。逆に、我々のように塾でありながら、むしろ本来なら学校で教えているはずの基礎を教えていたりするわけです。
最近だと秘密結社みたいないわゆる「エリート塾」を持て囃す本が書店に並んでいたりしますが、実際やっていることは単なる過去問演習の積み上げだったりします。
東大の先生方から聞きましたが、そういった塾で大量に養成された「マニュアルマニア」みたいな新入生が入ってくるのはいい迷惑だとのことです。

【津田】「塾なんてなくなればいい」というのは衝撃的なお話ですね。

【斉藤】たかが入試」なんですよ。我々が行っている、表現することを通じて学び、学力を高めていく指導方法が普及したら、僕はいつ廃業しても構わないと思っています。そのためにも、学校教育をしっかり立て直していかなければなりませんね。