学習優位を持つ企業こそが、不確実な時代に勝ち残る道

 東軍勝利のきっかけの一つは、秀吉の甥である小早川秀秋の裏切りです。石田三成が自軍の結束を固めることができなかった一方で、家康は豊臣家打倒の狙いを、巧妙に三成打倒にすり替えて味方を増やして、勝負したのです。

 戦国時代は不確実の連続です。本能寺の変で信長が死に、百姓の出身である秀吉への臣従も、家康からすれば「完全に想定外」だったはずです。したがって、家康が生き残り天下を手にできたのは、特定の強みよりもむしろ「現実から学習する能力が突出していた」と判断できるのです。

「自分が天下を収めることができたのは、武田信玄と石田三成両人のおかげである(我天下を治むる事は、武田信玄と石田治部少両人の御影にて、かようになりし)」(桑田忠親『徳川家康名言集』より)

 家康は、戦や軍事の手立ては信玄を師として学び、石田三成が謀反を起こしてくれたおかげで、三成を討って天下を手にすることができたと述懐しています。

『学習優位の経営』の著者、名和高司氏は不確実で安定しない時代には「競争優位」ではなく「学習優位」こそが武器となると述べています。実践からフィードバックを得て、その結果から次の手を打つ。これを繰り返しながら、他者よりもどれだけ優れた学びを得るかが勝負となるのです。徳川家康の「学習の力」は、次のような史実からもわかります。

・腹心だった石川数正の裏切りで、徳川の軍事制度を捨て、武田流を新たに採用した
・石田三成を殺さず、豊臣側の分裂の道具としたこと
・関ヶ原では家康も「秀頼のため」と大義名分を掲げた
・天下を手にしても、質実剛健を徳川家臣団の方針として徹底した

 秀吉の手引きで家臣が裏切り、徳川の軍事機密が漏れたことを機会にして、家康は自身が負けた武田信玄の軍制度を新たに導入しています。また、織田信雄を説得されて戦闘の大義名分を失った過去の経験から、関ヶ原では「豊臣家(秀頼)のために戦う」という旗印を掲げて、豊臣恩顧の武将を味方につけています。

300年続いた徳川政権と、勝ち続ける企業の学習優位

 天下を手にしたのちも、豪奢な生活を戒める言葉を、徳川家臣や跡継ぎの秀忠に何度も伝えますが、天下人となった秀吉が権威を誇示するため、高価な茶器を集めて派手な姿を見せたことを反面教師としたのでしょう。

 POSデータを日々の販売予測に活用することで有名なコンビニのセブン-イレブンは、毎日の現場がまさに「学習の場」です。

 売れ筋を把握するだけでなく、新しい企画商品が実際に棚に並んで“売れるか売れないか”を最速で学び反映する仕組みこそ、セブン-イレブンの強さと魅力を際立たせ続ける要因といえるのではないでしょうか。

 現在、全世界で約1000万台超の生産数を誇るトヨタ自動車ですが、同社の強みと言われる「トヨタ生産方式」は、80年代から90年代に研究されて、海外メーカーの多くも同種の知識を採り入れています。にもかかわらず、トヨタは低燃費のハイブリッド・カーで世界を席巻し、最近では燃料電池の新たな技術で車の未来を開拓しています。

 不確実な現代ビジネスでも、目の前の変化から常に学ぶ、飛び抜けた学習優位を誇る経営者と企業こそが最後に天下を獲るのです。

(第10回に続く 4/13公開予定です)