いつ自らが駆逐されるかわからない環境の中で、他社を追い抜き突き放す、スピードとスケールへの要求は強力なプレッシャーである。それはソフトウエアに限らず、日本が得意とされるハードウエアの分野でも同様に存在する。

完璧さよりもスピードが求められるハードウエア開発

 IoTのトレンドなどを受け、近年はソフトウエアだけでなくハードウエア開発も伴うビジネスを目指すスタートアップが増えてきている。同分野での米国における資金調達額は2010年の$768M(約845億円)から2014年には$1981M(約2179億円)へと2倍以上に拡大した(2)

 ハードウエア系のスタートアップにとって、ものづくりパートナーの主役は台湾・中国系のEMS(電子機器製造受託サービス)メーカーだ。コストはもちろん大きな理由だが、彼らがシリコンバレーのスピードとスケールの感覚に対応していることは、重要な理由のひとつである。

 一日でも早く結果がほしい。わずかでもできることがあれば行動を起こしたい。台湾・中国系EMSメーカーは、スタートアップのこうしたニーズに応えているのだという。ただし聞くところによると、納品された製品については品質のばらつきも多いのだそうだ。特にプロトタイピングの段階では、例えば10個注文したらそのうちいくつかは動かないということが起こるという。それでも彼らが広く受け入れられているのは、スピードが品質に優先する場合があるからだ。

 動かない製品を納品するなど日本企業では考えられないが、その分時間は長くかかってしまう。しかしビジネス開発の文化が違うのである。完璧なものを10個納品されるよりも、一部でもいいから動くものが早く納品される方がよい。数個でも手元で動作させられれば、その分開発をすすめることができる。台湾・中国系EMSメーカーのやり方は、創業初期のスタートアップを中心に広く受け入れられている。

 その背景は、先にあげた市場競争のプレッシャーに加えて、スタートアップの創業者や従業員の生活環境を想像するとわかりやすい。スタートアップは投資を受けて製品やサービスの開発を行う。お金はベンチャーキャピタルなどから調達するが、彼らは営利企業であり、返済を求めない代わりに成長を求める。同時に株主でもあるから、スタートアップは経営陣の意向として、企業価値を大きく高めるというベクトルを中に持っている。

 それから、できたばかりのスタートアップは基本的に収入がない。売るべき製品やサービスはまさに開発中だからだ。投資されたお金は開発費用だけでなく、人件費や設備費などに日々消えていく。ゼロになったら会社は終わり。一日も無駄にはできない。そういうプレッシャーにも日々さらされている。