視点が変わると、答えも変わる
今年の春、ある企業の新人研修で話をする機会があった。その時、参加した新入社員たちに、こんなパズルを解いてもらった。
「以下の数式は、ある規則に沿って並んでいる。?に当てはまる数字を答えなさい。
9=72、8=56、7=42、6=30、5=20、3=?」
「答えがわかる人は手をあげてください」と言うと、何人かの手があがった。最前列に座っていた男子社員を当てると「6です」と答えた。
「違う答えの人はいませんか?」とさらに聞くと、最後列の女子社員が手を挙げた。彼女は「9です」と答えた。
そう、実はこのパズルには答えが二つあるのだ。
答えを「6」と答えた男子社員に「彼女は答えが9だと言っているけれども、なぜだかわかりますか?」と尋ねると、少し考えた末に「わかりません」という答えが返ってきた。次に「9」と答えた女子社員に「6と言っている人がいますが、どうしてだかわかりますか?」と聞くと、狐につままれたような顔をしてただ首を振るだけだった。
どうやら、人は答えを一つ見つけてしまうと、それ以外の答えを見つけづらくなるようだ。
ミカ・ゼンコ著 関 美和訳
文藝春秋 380p 1900円(税別)
このパズルの件を踏まえ、新人研修での私の話は「社会で仕事をしていると、こうしたことはよくある。自分の考えだけが正しいと思わずに、いろいろな人の意見を聞きなさい」という結論で締めくくった。しかし、これは新人だけではなく、自分も含めた社会人全員が常に心に留めておくべきことだと思う。
二通りの考え方があり、どちらかが正しいと思い込んでしまったとしたら、どういうことが起こるだろう。上記のパズルの場合はどちらも正解なのでまだよい。だが、間違った考えに固執してしまうこともあるだろう。特に組織としてどのように行動するべきかを決めなくてはならない時に、1つの見方にこだわって判断すると、取り返しのつかない失敗につながることもある。どうすれば失敗を回避できるのだろうか。
本書の著者のミカ・ゼンコ氏は国際安全保障と軍事戦略が専門で、アメリカの軍や諜報機関で採用された「レッドチーム」の手法が体系化され、それが民間企業にも広まっていることに注目した。
レッドチームは、組織の多数派や上層部に対してあえて反対意見を述べる「悪魔の代弁者」の役割を担うことを目的につくられる。ゼンコ氏は、CIA長官から企業幹部、さらにはスーパーハッカーまで、200人以上のレッドチーム実践者へのインタビューを通して、さまざまな分野での事例を収拾。本書は、それらをもとにレッドチームの機能や、そこで使われている思考法についてまとめあげた書だ。