あまりの残業時間の多さから、「あの部署にだけは異動したくない」と社内で噂されていたにもかかわらず、短期間の取組みによって、仕事のパフォーマンスを下げずに実質“サービス残業ゼロ”を達成した職場がある。それがJALの調達本部だ。業務の効率化や社員のモチベーションアップに取り組みながらも成果を出せずに嘆く日本企業が多いなか、なぜ同社の調達本部は蘇ることができたのか。そこで取り組まれた「ワークスタイル変革」を紹介しよう。(取材・文/フリーライター・安田有希子)

部員がフリーアドレス座席で働くJAL調達本部の様子

「あの部署にだけは行きたくない」
超残業職場で何が起きていたか?

「部署の仕事や担当が整理されておらず、職場の業務効率の悪さが恒常化している」「残業ばかりで社員が疲弊している」――。世の中の企業は、こうした悩みを日常的に抱えている。

 なかには、生産性の向上やワークライフ・バランスの実現のために、社員の働き方を変える動き、いわゆる「ワークスタイル変革」に着手する企業もある。しかし、なかなか成功に至らない企業も少なくない。

 そんな悩める企業のお手本になりそうなのが、JAL(日本航空)の調達本部で行なわれたワークスタイル変革 への取り組みである。JALの調達本部は、社内で試験的にワークスタイル変革に立候補したのち、たった1年3ヵ月で実質“サービス残業ゼロ”を実現させた。多忙な部署にもかかわらず、社員の働き方を変えることにより、1日平均2時間の残業を減らすことができた上、仕事のパフォーマンスを下げることなく、社員の満足度も上昇したという。

 周知の通り、JALは2010年1月に経営破綻した経緯がある。その後、徹底した再生への取り組みが行われ復活を果たしたわけだが、その過程で同社には社内改革を厭わない風土ができていった。後述するが、調達本部におけるワークスタイル変革の気運も、こうした風土の元で生まれたものと言える。

 調達本部はなぜ短期間で職場に大きな変化を起こすことができたのか。その改革の手順や考え方について、関係者の話を交えながらポイントを紹介しよう。

「我々調達本部は、新しいことを始めようという経営破綻以降の組織でもあったので、従来の部署とは違ったDNAを持っていたと思います」

 こう語るのは、JAL調達本部の埋金洋介氏(調達第一部 企画グループ グループ長)だ。JALでは破綻当初、全社的に従来からの働き方を変えていこうという話はあったが、具体的にはなかなか進んでいなかったという。そんななか、率先してワークスタイル変革に着手したのが、埋金氏をはじめとする調達本部のリーダーたちだった。