岸田首相は当初、「分配なくして成長なし」と強調していたが、その経済政策の路線を、「成長なくして分配なし」へと切り替えつつあるという見方も出てきている。この転換は、重大な意味をもつ。なぜなら、近年の有力な経済研究の成果が示すとおり、「分配」こそが「成長」の礎になることは明らかだからだ。そして、「分配なき成長戦略」こそが経済低迷を生み出してきたからだ。なぜ、そう断言できるのか? 本日発売の最新刊『変異する資本主義』(ダイヤモンド社)で、世界最先端の「成長戦略」の動向を分析した中野剛志氏が解説する。

「所得分配」政策こそが、成長戦略である“明白な理由”写真はイメージです Photo: Adobe Stock

「分配なくして成長なし」か?「成長なくして分配なし」か?

 岸田文雄首相は、10月4日の就任初の記者会見において、「分配なくして成長なし」と強調した。

 このように分配と成長のうち、分配をより重視・先行させる姿勢は、これまでの経済政策の路線を大きく転換するものである。岸田首相は、10月14日の記者会見においても、これは世界の潮流であるとも述べている

 しかし、この岸田首相の画期的な経済政策の理念については、成長を軽視するものと否定的に受け取り、批判する声が数多く聞かれた

 例えば、日本経済新聞社は、10月4、5日に実施した緊急世論調査において、「国全体の経済力を高める成長戦略と、格差是正につながる分配政策のどちらを優先すべきか」を聞いている。その結果、「成長」が47%、「分配」が38%だったという。

 このような批判を受けてのことであろうか、岸田政権の経済政策の路線は、「分配なくして成長なし」から「成長なくして分配なし」へと、トーンを変えつつあるという見方も出ている

「成長なくして分配なし」という理念に立つ場合、経済政策は、これまで通り、成長戦略を優先させるものとなる。

 ちなみに、ここで言う「成長戦略」とは、生産性の向上に資するような供給サイドの政策を指すのが一般的である。

 さて、「分配なくして成長なし」と「成長なくして分配なし」と、いずれの説が正しいのであろうか。

 一見すると、「成長なくして分配なし」説が正しいように見える。「成長の果実を分配するのだから、まずは成長戦略が優先だ」というわけである。 

 しかし、近年の有力な研究から得られる知見は、「分配なくして成長なし」説の方に軍配を上げるのである。