稲盛和夫氏Photo:JIJI

「会社にとって、安全が大事なんですか、利益が大事なんですか」――。日本航空(JAL)の再建に当たっていた稲盛和夫氏は、JALの幹部からそう問い詰められたことがあった。それに対して稲盛氏は、示唆に富む納得の回答をしている。多くのビジネスパーソンが一度は悩んだことがある問いに対する、「経営の神様」の答えとは?(イトモス研究所所長 小倉健一)

経営破綻したはずのJALに漂う
生ぬるい雰囲気を感じ取った稲盛和夫氏

 2010年1月に会社更生法の適用を申請し、経営破綻した日本航空(JAL)。官民ファンドの企業再生支援機構らがスポンサーにつき、経営・運航を継続しながら再建を目指すことになった。

「破綻したはずなのに、(JAL)社内には生ぬるい雰囲気が漂っている」。JALの再建を担うことになった稲盛和夫氏は、そう感じたのだという。

 稲盛氏は、JAL幹部との会議があるごとに「あなたたちは一度、会社をつぶした。本当なら今頃、職業安定所に通っているんだ」とおしぼりを投げつけ、怒りをあらわにした。実際に、全役員に対して、1日3時間半、週4回の「リーダー教育」を施したのだという(ちなみに、稲盛氏は週6日開催を望んだが、週1ペースを望む役員の反対に遭い、週4日に落ち着いた)。

「本当なら今頃、職業安定所に通っているんだ」という稲盛氏の指摘は、実際にその通りの部分がある。JALは、会社更生手続き中に整理解雇を実施した。解雇されたパイロットや客室乗務員(CA)など計146人から地位確認や賃金支払いを求める訴訟を起こされている。なお、この整理解雇を含む会社更生計画は、東京地方裁判所に認可された。

 安全の担い手となる整備部門の人員も、ベテランを中心に4分の1ほどが退職した。安全性を犠牲にするような安易なコスト削減には「手を付けない」と当時の大西賢JAL社長は語っていた。しかし、同じ時期の新聞報道からは「安全運航と収益回復の二兎(にと)を追う道筋が描けたとは言えない状況だ」(「毎日新聞」10年8月13日)と厳しい指摘を受けている。

 こうして、聖域とされてきたパイロットや整備部門の人員までも削減。さらに稲盛氏が考案した「アメーバ経営」の導入によってコスト削減と売り上げアップを、全従業員一丸となって推し進めていくことになる。

 そんな中で稲盛氏は、JALの幹部から「会社にとって、安全が大事なんですか、利益が大事なんですか」と問い詰められたことがあった。それに対して稲盛氏は、示唆に富む納得の回答をしている。これをご紹介したい。