2022年8月、「経営の神様」といわれた稲盛和夫氏が亡くなった。京セラ、KDDIを創業した稲盛氏は10年に会社更生法を申請した日本航空(JAL)の会長に就き、わずか2年でV字回復をやってのけた。ダイヤモンド編集部は、今から約10年前にJAL取締役の退任直後の稲盛氏を直撃し、経営の神髄について聞いている。巨大な組織に乗り込んだ稲盛氏は“面従腹背”の幹部社員の意識をどう変え、会社を再生の軌道に乗せたのか。稲盛経営を徹底解剖した「週刊ダイヤモンド」2013年6月22日号に収録されたインタビュー記事を再掲する。(ダイヤモンド編集部)
JAL会長就任は「義侠心のようなもの」
“面従腹背”幹部をきつく叱りつけ
――日本航空(JAL)の会長に就任した際、再建にはどの程度の成算があったのでしょう。
2009年の暮れ、政府と企業再生支援機構から、JALが会社更生法の適用を申請するので、その再建に向けて会長として就任してほしいという要請を受けました。
正直言いまして、びっくり仰天して、「航空業界には何の知識も経験もありませんし、引き受ける気はありません」と断りました。
それでも、何回も言われて断り続けているうち、最後は、そこまで言われるのであればという義侠心みたいなものでお引き受けした。ただ、年も年なので週3日くらいで、その代わり無報酬でお手伝いしますと申し上げたんです。確信も自信も何もなかったです。
――再建の手法について、めどは立っていたのですか。
着任したらすぐに、海外のコンサルタントの方々が4、5社は来ましたかな。「われわれは米国で倒産した航空会社を再建した、非常に慣れている」と言って、いろんな手だての話をされる。
でも、その手段とか手法とかは立派そうに見えるんですが、どうも私にはピンとこなくて、全部お断りしたんです。
私は、つぶれた会社は企業経営の根幹に何か欠陥があるんだろうと、まずは幹部連中に「経営とは会計学的な計数を見てするのが基本です。だから、いま現在JALはどうなっているのか、月々の決算を見たい」と言いました。
そしたらまあ、3カ月も4カ月も前の決算が出てきた。それで、「当社には世界中に支店があって毎日1000機飛んでいる。各支店や空港の数字を集めて、本社の経理がそれをまとめるのだから時間がかかるのは当然です」とケロッとしている。
何も知らないじいさん、それも田舎大学を出た無知な技術屋が突然来て、むちゃなことを言っているという表情をしているんです。並み居る幹部連中は皆、利発そうで、明らかに面従腹背という感じだった(笑)。
ですが私は「そんなのは経営なんかではありません」と、きつく叱った。私はパイロットの経験はないけれど、飛行機のコックピットには計器がいっぱいあって、その計器を全部見なければ安全に飛べないはずだろう、と。
「来る日も来る日も叱っていたら、相当に迫力があったんでしょうな」。次ページでは、稲盛氏が、巨大な官僚組織に自身の経営哲学「フィロソフィ」をどのように浸透させたかを明らかにする。稲盛氏はJAL再建の決め手となった、経営トップが持つべき「心構え」についても説いていく。